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忠直卿行状記(菊池寛)のあらすじ・登場人物

若き藩主・忠直の行状

  • 歴史
  • 心理

菊池寛 1918年(大正7年)9月 「中央公論」

文字数
23,522字
読了目安
約47分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 福井県

この作品について

菊池寛が1918年(大正7)9月に『中央公論』へ発表した歴史小説。徳川家康の孫にあたる越前六十七万石の藩主・松平忠直を主人公とし、史実の人物の行状を題材に、その背後にある心の動きを描く。主君と家臣という身分の枠のなかで、人は互いの本心をどこまで知りうるのかを問う。一つの主題を明晰な構成で掘り下げる、菊池の「テーマ小説」の代表作として文学史でもしばしば取り上げられる。

あらすじ

大坂夏の陣の直後、越前少将・松平忠直卿は、祖父家康から自軍の不甲斐なさを面罵され、深い屈辱を味わう。名誉を回復しようと武芸に励む若い忠直だったが、ある夜、家臣たちが本心では自分の技量を侮り、主君に世辞を並べているだけだと知ってしまう。剣術の立ち合いでも、家臣は主君に花を持たせてわざと負けていた——その事実を偶然立ち聞きした忠直は、自分を取り巻くあらゆる言葉と態度が、地位に対する追従にすぎないのではないかという疑いに取り憑かれる。以来、彼は家臣を試さずにはいられなくなり、その裏切りや保身を暴くうち、猜疑はやがて残虐な振る舞いへと膨れ上がっていく。侍女や家臣を手にかけ、「暴君」の悪名を天下にとどろかせた忠直は、ついに幕府から改易を申し渡され、六十七万石の封土を弊履のごとく捨てて豊後へ流される。ところが、すべての地位を失って一人の人間に戻った配所での忠直は、憑き物が落ちたように穏やかで慎み深い晩年を送った。かつての暴君の面影はどこにもなく、身分の別なく人を愛したその姿を、警護の者が『忠直卿行状記』に書き留めるのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

家康の本陣へ呼び付けられた忠直卿の家老たちは、家康から一たまりもなく叱り飛ばされて散々の首尾であった。「今日井伊藤堂の勢が苦戦したを、越前の家中の者は昼寝でもして、知らざったか、両陣の後を詰めて城に迫らば大坂の落城は目前であったに、大将は若年なり、汝らは日本一の臆病人ゆえ、あたら戦を仕損じてしもうたわ」と苦り切って罵ったまま、家康はつと座を立ってしまった。

「忠直卿行状記」菊池寛(青空文庫)

末尾部(原文より)

忠直卿の晩年の生活については、なんらの史実も伝わっていない。ただ、忠直卿警護の任に当っていた府内の城主竹中采女正重次が、その家臣をして忠直卿の行状を録せしめて、幕席の執政たる土居大炊頭利勝に送った「忠直卿行状記」の一冊があるばかりである。その一節に、「忠直卿当国津守に移らせ給うて後は、些の荒々しきお振舞もなく安けく暮され申候。……御身はよろず、お慎み深く、近侍の者を憫み、領民を愛撫したもう有様、六十七万石の家国を失いたる無法人とも見えずと人々不審しく思うこと今に止まず候」と、あった。

「忠直卿行状記」菊池寛(青空文庫)

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