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偸盗(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

炎天の平安京、盗賊たちの兄弟と女

  • 歴史
  • 心理

芥川龍之介 1917年(大正6年)4月 「中央公論」

文字数
48,934字
読了目安
約1時間38分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 京都府

この作品について

荒廃した平安京を舞台に、盗賊の一団と、そこに巻きこまれた兄弟、そして一人の妖しい女・沙金の関係を描いた芥川龍之介の初期長編。「羅生門」「藪の中」と同じ王朝物でありながら、こちらは血と欲望が濃密に渦巻く。芥川自身は失敗作と称したが、その情念の描写は他の作品にないものである。

あらすじ

むし暑い七月の日ざかり、朱雀綾小路の辻で、片目の醜い侍・次郎が、猪熊のおばばと呼ばれる老婆を呼びとめる。二人はともに、都を荒らす盗賊の一味であった。次郎には太郎という兄がいる。うす痘瘡の痕のある大男で、盗賊団の頭のような存在だが、この兄弟のあいだには沙金という女が横たわっていた。沙金は猪熊のおばばの娘で、太郎の情婦でありながら、次郎にも身を任せている。次郎は兄への負い目と女への執着に引き裂かれ、この道から抜け出すために兄を殺すことさえ思いつめる。おばばは老いた欲深さで娘を売り、太郎は獣のような単純さで女に溺れ、沙金は誰をも手玉に取りながら自分の欲だけに忠実に生きている。やがて一味は藤判官の邸を襲う大仕事を企て、その夜に向けて、それぞれの思惑が煮つまってゆく。乱闘のなかで兄弟は刃を交え、女をめぐる憎悪と、それでも断ちきれない血のつながりとが噴き出す。物語の最後は、事件のあとを検非違使が調べる場面へと転じる。太郎の家にいた阿濃という娘の証言によって、その夜に何が起きたのかが断片的に明かされ、彼女は罪のないことが明らかになって放免された。十年余りのち、尼となって子を育てていた阿濃は、丹後守の随身に驍勇の名の高い男が通るのを見て、あれが太郎だと人に教えた——だが、それが本当に太郎かどうかは、誰にも分からない。

登場人物

冒頭部(原文より)

「おばば、猪熊のおばば。」  朱雀綾小路の辻で、じみな紺の水干に揉烏帽子をかけた、二十ばかりの、醜い、片目の侍が、平骨の扇を上げて、通りかかりの老婆を呼びとめた。――  むし暑く夏霞のたなびいた空が、息をひそめたように、家々の上をおおいかぶさった、七月のある日ざかりである。

「偸盗」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

 それから、十年余りのち、尼になって、子供を養育していた阿濃は、丹後守何某の随身に、驍勇の名の高い男の通るのを見て、あれが太郎だと人に教えた事がある。なるほどその男も、うす痘瘡で、しかも片目つぶれていた。 「次郎さんなら、わたしすぐにも駆けて行って、会うのだけれど、あの人はこわいから……」  阿濃は、娘のようなしなをして、こう言った。が、それがほんとうに太郎かどうか、それはたれにも、わからない。

「偸盗」芥川龍之介(青空文庫)

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