じいさんばあさん(森鴎外)のあらすじ・登場人物
三十七年を隔てた夫婦の再会
- 歴史
- 心理
- 文字数
- 5,622字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
森鴎外が1915年(大正4年)、「新小説」に発表した短編小説。江戸期の史実に取材した、鴎外の歴史小説の一編である。麻布竜土町の小さな隠居所に、真白い髪の品格ある老夫婦が仲むつまじく暮らしはじめる。美濃部伊織とるん――若くして結ばれながら、伊織が刃傷沙汰で三十七年もの長きにわたり配流の身となり、離ればなれになっていた二人が、老いてようやく再会を果たしたのだった。長い歳月を隔ててなお変わらぬ夫婦の情愛を、鴎外が簡潔で情のこもった史伝体で描いた佳品である。
あらすじ
文化六年の春、麻布竜土町の松平家の邸内の小さな隠居所に、真白い髪の、しかし腰も曲がらず、立派な両刀を差した品格ある爺いさんが一人、移り住んでくる。ほどなく、これも真白な髪を小さな丸髷に結った、品のよい婆あさんが来て同居する。近所の者は、まるで子どもがまま事でもするように仲むつまじく暮らす老夫婦を、微笑ましく眺めた。この爺いさん――美濃部伊織と、婆あさん――るんは、じつは若くして結ばれた夫婦だった。だが伊織は、参勤の途上、些細なことから相役を斬り殺してしまい、越前丸岡へ三十七年もの長きにわたって配流の身となった。その間、るんは黒田家の奥女中として三十一年間も奉公を勤めあげ、貞節を守って夫の帰りを待ち続けた。歳月は流れ、恩赦によってようやく江戸へ帰ることを許された伊織を、るんは喜び勇んで迎え、竜土町の家で、実に三十七年ぶりの再会を果たしたのである。江戸期の史実に取材し、長い歳月を隔てて再びむつまじく寄り添う老夫婦の姿を、鴎外が簡潔な史伝体で描いた一編である。
登場人物
- 美濃部伊織 白髪ながら品格ある老武士。若き日に刃傷沙汰を起こし、越前丸岡へ三十七年配流された。老いてるんと再会する
- るん 伊織の妻。夫の配流の間、黒田家の奥女中を三十一年勤めあげ、貞節を守って夫の帰りを待ち続けた
冒頭部(原文より)
文化六年の春が暮れて行く頃であった。麻布竜土町の、今歩兵第三聯隊の兵営になっている地所の南隣で、三河国奥殿の領主松平左七郎乗羨と云う大名の邸の中に、大工が這入って小さい明家を修復している。近所のものが誰の住まいになるのだと云って聞けば、松平の家中の士で、宮重久右衛門と云う人が隠居所を拵えるのだと云うことである。
「じいさんばあさん」森鴎外(青空文庫)
末尾部(原文より)
その翌年の文化六年に、越前国丸岡の配所で、安永元年から三十七年間、人に手跡や剣術を教えて暮していた夫伊織が、「三月八日浚明院殿御追善の為、御慈悲の思召を以て、永の御預御免仰出され」て、江戸へ帰ることになった。それを聞いたるんは、喜んで安房から江戸へ来て、竜土町の家で、三十七年振に再会したのである。
「じいさんばあさん」森鴎外(青空文庫)
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