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魚玄機(森鴎外)のあらすじ・登場人物

才色の女道士が獄に下るまで

  • 歴史
  • 心理

森鴎外 1915年(大正4年)7月 「中央公論」

文字数
9,867字
読了目安
約20分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

『中央公論』1915年7月号に発表された歴史小説。晩唐の女道士で詩人の魚玄機が、人を殺して獄に下ったという風説の紹介から始まり、生い立ち、詩人温飛卿との出会い、李億との縁と出家、咸宜観での暮らしへと遡って語る。作中には玄機の漢詩が引かれ、末尾には『三水小牘』『唐才子伝』など参照した書名が並ぶ。史料に基づき、人物の心の動きを組み立てた作品。

あらすじ

唐の咸通九年、長安の女道士魚玄機が人を殺して獄に下る。玄機は妓家の娘で、幼いころから白居易らの詩を暗唱し、十五歳のとき、詩人の温庭筠(飛卿)に詩を見せて師事する。十八歳で素封家の李億に側室として迎えられるが、玄機は李の求めを拒んで泣くばかりで、李の妻の反発もあり、咸宜観に預けられて女道士となる。道術の修行で女として目覚めた玄機は、詩を求めて訪れる客を迎え、親しい采蘋を失ってからは、客を拒まなくなった。やがて楽人の陳某と通じ、七年ほどは穏やかに過ぎる。陳が旅から戻った春、新しく来た婢の緑翹を陳がからかうのを見た玄機は、二人の仲を疑うようになる。留守の間に陳が訪ねて帰ったと緑翹から聞いて、猜疑と嫉妬が募り、戸に鍵を掛けて問い詰めた末、思わず緑翹の喉を扼して殺してしまう。屍は観の裏の穴に埋めたが、初夏、蠅の群がる土が客の目に留まって露顕する。玄機は弁解せず罪に服し、人々は才を惜しんで救おうとしたが、立秋のころ斬に処された。遠い任地にいた温庭筠は、その死を深く悼んだ。

登場人物

冒頭部(原文より)

魚玄機が人を殺して獄に下った。風説は忽ち長安人士の間に流伝せられて、一人として事の意表に出でたのに驚かぬものはなかった。

「魚玄機」森鴎外(青空文庫)

末尾部(原文より)

玄機の刑せられたのを哀むものは多かったが、最も深く心を傷めたものは、方城にいる温岐であった。 玄機が刑せられる二年前に、温は流離して揚州に往っていた。揚州は大中十三年に宰相を罷めた令狐綯が刺史になっている地である。温は綯が自己を知っていながら用いなかったのを怨んで名刺をも出さずにいるうちに、ある夜妓院に酔って虞候に撃たれ、面に創を負い前歯を折られたので、怒ってこれを訴えた。綯が温と虞候とを対決させると、虞候は盛んに温の行を陳述して、自己は無罪と判決せられた。事は京師に聞えた。温は自ら長安に入って、要路に上書して分疏した。この時徐商と楊収とが宰相に列していて、徐は温を庇護したが楊が聴かずに、温を方城に遣って吏務に服せしめたのである。その制辞は「孔門以徳行為先、文章為末、爾既徳行無取、文章何以称焉、徒負不羈之才、罕有適時之用」と云うのであった。温は後に隋県に遷されて死んだ。

「魚玄機」森鴎外(青空文庫)

名文

魚玄機が人を殺して獄に下った。風説は忽ち長安人士の間に流伝せられて、一人として事の意表に出でたのに驚かぬものはなかった。

鴎外『魚玄機』の書き出し。美貌と詩才で知られた唐の女道士の事件をまず突きつけ、そこから彼女の来歴をさかのぼって語っていく。

易求無価宝。   難得有心郎。

玄機が友の采蘋に贈った詩「贈隣女」の一聯。値のつけられない宝は求めやすいが、真心ある男は得がたい、と恋の嘆きを詠む。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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