別れたる妻に送る手紙(近松秋江)のあらすじ・登場人物
別れた妻への断ちがたい未練
- 心理
- 恋愛
- 文字数
- 51,577字
- 読了目安
- 約1時間43分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
近松秋江が1910年(明治43年)、「早稲田文学」に発表した短編小説。秋江の名を高めた出世作であり、赤裸々な告白体の私小説として知られる。別れた妻・お宮への断ちがたい未練を、「もうお前と呼ぶ権利はない」と知りながら、なお「お前」と呼びかけずにはいられない一人の男が、離別後の日々の煩悶と、女への執着とを、恥も外聞もなく手紙に書き綴る。愚かなまでの痴情を、包み隠さずさらけ出した執着の文学として名高い。
あらすじ
「拝啓――お前。別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い」。そう書き起こしながらも、男は、別れた妻お宮への未練を断ちきれず、なお彼女に「お前」と呼びかけずにはいられない。風の便りに、お宮はもう他の男に嫁いだらしいと聞きながら、それでも男は、この手紙を書かずにはいられないのだ。お宮は、水商売に身を置いていた女で、その言うことは嘘か真か見分けもつかず、故郷も名前もいくつもの偽りに彩られている。あどけなさと計算高さ、情の深さとつかみどころのなさとをあわせ持つこの女に、男は救いがたく引きずられてきた。手紙のなかで男は、彼女の過去の男たちのこと、別れてからの自分の孤独と煩悶、そして今なお胸を灼く嫉妬と執着とを、恥も外聞もなくさらけ出していく。愚かとしか言いようのない痴情を、飾らずに告白したその筆致は、日本の私小説の一つの原型を示すものとなった。近松秋江の名を一躍高めた、執着の文学の代表作である。
登場人物
- 私(男) 別れた妻お宮への未練を断ちきれず、その執着と煩悶を手紙に書き綴る語り手
- お宮(下田しま) 男の別れた妻。もと水商売の女で、嘘とも真ともつかぬ言動で男を惑わし、引きずり続ける
冒頭部(原文より)
拝啓 お前――別れて了ったから、もう私がお前と呼び掛ける権利は無い。それのみならず、風の音信に聞けば、お前はもう疾に嫁いているらしくもある。もしそうだとすれば、お前はもう取返しの付かぬ人の妻だ。その人にこんな手紙を上げるのは、道理から言っても私が間違っている。けれど、私は、まだお前と呼ばずにはいられない。どうぞ此の手紙だけではお前と呼ばしてくれ。
「別れたる妻に送る手紙」近松秋江(青空文庫)
末尾部(原文より)
あゝそれを思えば残念だが、何うせ斯うなるとは、ずっと以前「直ぐ行って聞いて見てやった。」と言った時から分っていたことだ、と種々なことが逆上って、咽喉の奥では咽ぶような気がするのを静と堪えながら、表面は陽気に面白可笑く、二人のいる前で、前言った、しごきをくれた夜の様を女の身振や声色まで真似をして話した。
「別れたる妻に送る手紙」近松秋江(青空文庫)
原文を読む
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