歌行灯(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
芸が人を殺し、芸が人を救う
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 36,099字
- 読了目安
- 約1時間12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 三重県
この作品について
泉鏡花の中期を代表する中編小説。1910年(明治43年)1月、雑誌「新小説」に発表された。東海道の宿場町・桑名を舞台に、謡の腕比べで人を死に追いやった能役者の贖罪と、芸の力による魂の救済を描く。能楽への深い造詣を土台にした「芸道もの」の代表作として知られ、坪内逍遥にも激賞された。
あらすじ
能楽の名家・恩地家に生まれた恩地喜多八は、素人ながら謡の巧みな老人・宗山に座興の腕比べを挑み、恥をかかせて憤死させてしまう。この一件で伯父の源三郎から勘当された喜多八は能を捨て、諸国を渡り歩く門付け芸人として肺を病みながら流浪の日々を送る。桑名の宿で喜多八は、宗山の遺児で芸者となっていたお三重と巡り会う。かつての罪滅ぼしにと、喜多八は禁を破ってわずか七日でお三重に舞と謡を教え込む。やがて伯父・源三郎が桑名を訪れた夜、お三重は「海人」の一節「玉之段」を舞い、源三郎と居合わせた辺見が謡と鼓でこれに応じる。門の外でその音に引き寄せられた喜多八もまた、声を合わせて謡うのだった。
登場人物
- 恩地喜多八 能楽の名家に生まれながら勘当され、諸国を流浪する本作の主人公
- 宗山 素人ながら謡の巧みな老人。喜多八との腕比べに恥をかかされ憤死する
- お三重 宗山の娘。父の死後は芸者となり、喜多八から舞と謡の手ほどきを受ける
- 恩地源三郎 喜多八の伯父。かつて喜多八を勘当した
冒頭部(原文より)
宮重大根のふとしく立てし宮柱は、ふろふきの熱田の神のみそなわす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……と口誦むように独言の、膝栗毛五編の上の読初め、霜月十日あまりの初夜。中空は冴切って、星が水垢離取りそうな月明に、踏切の桟橋を渡る影高く、灯ちらちらと目の下に、遠近の樹立の骨ばかりなのを視めながら、桑名の停車場へ下りた旅客がある。
「歌行灯」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
「背を貸せ、宗山。」と言うとともに、恩地喜多八は疲れた状して、先刻からその裾に、大きく何やら踞まった、形のない、ものの影を、腰掛くるよう、取って引敷くがごとくにした。路一筋白くして、掛行燈の更けたかなたこなた、杖を支いた按摩も交って、ちらちらと人立ちする。
「歌行灯」泉鏡花(青空文庫)
名文
宮重大根のふとしく立てし宮柱は、ふろふきの熱田の神のみそなわす、七里のわたし浪ゆたかにして、来往の渡船難なく桑名につきたる悦びのあまり……
膝栗毛の一節を口ずさむ声から始まる冒頭。桑名を舞台に能と芸の因果を描いた、鏡花円熟期の代表作の幕開け。
原文を読む
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