風俗小説とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- ふうぞくしょうせつ
ある時代の世相や風俗、人々の暮らしぶりや人情の機微を、写実的に描くことに重きを置いた小説。広い意味では、都市の流行や盛り場、男女の交際などを細やかに写した小説をいう。狭い意味では、昭和10年代から戦後にかけて、丹羽文雄・舟橋聖一らが書いた、現代社会の世態や男女の風俗を描く作品群を指す。私小説の写実の技法を受け継ぎながら、作者自身の内面よりも、世間とそこに生きる人々に目を向けたところに特色がある。評論家の中村光夫は『風俗小説論』(昭和25年)で、『破戒』や『蒲団』に始まる日本の近代リアリズムの歩みをたどりながら当時流行の風俗小説を厳しく批判し、丹羽文雄との論争を招いた。この語にはしばしば、思想や内面の掘り下げが浅いという否定的な響きがこめられている。収録作では、銀座のカフェーの女給を描いた永井荷風の『つゆのあとさき』(昭和6年)、浅草の裏街の人々を描いた武田麟太郎の『日本三文オペラ』(昭和7年)、大阪の庶民の暮らしを描いた織田作之助の『夫婦善哉』(昭和15年)などに、時代の風俗を写しとる筆を見ることができる。のちに中間小説が広がるとともに、この呼び名はあまり使われなくなった。