花柳小説とは
- 分類
- 形式・ジャンル
- 読み
- かりゅうしょうせつ
遊廓や芸者の世界、いわゆる花柳界を舞台に、遊女・芸者とその客や周囲の人々の色恋と人情、意地と哀歓を描く小説。遊里の風俗と会話の妙を写した江戸の洒落本や人情本の伝統を思わせる題材で、明治以降も多くの作家が手がけた。明治20年代には、斎藤緑雨が「油地獄」「かくれんぼ」(ともに明治24年)で、花柳界に足を踏み入れたうぶな青年の顛末を皮肉と諧謔の筆で描き、広津柳浪は吉原の遊女の悲恋と心中を描いた「今戸心中」(明治29年)で深刻小説の代表作を残した。泉鏡花は柳橋の芸者お蔦が登場する『婦系図』(明治40年)や、日本橋の芸者たちの意気地と情を描いた『日本橋』(大正3年)で、花柳界を浪漫的な美の世界として描き出した。この分野の第一人者とされるのが永井荷風で、新橋の芸者たちの生態と駆け引きを写した『腕くらべ』(大正5〜6年)は近代の花柳小説の代表作とされる。荷風は昭和期にも、私娼として生きる女とその情夫の日陰の暮らしを描いた「ひかげの花」(昭和9年)などで、都会の片隅の女たちを見つめ続けた。岡本かの子の「老妓抄」(昭和13年)は、功成り名遂げた老芸妓の尽きることのない生命力を描いて、この系譜に独自の光を加えている。