雨宮紅庵(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
二号の女と奇妙な友
- 心理
- 恋愛
- 文字数
- 16,153字
- 読了目安
- 約32分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
この作品について
1936年(昭和11年)、「早稲田文学」に載った坂口安吾の短編小説。呉服商の伊東伴作のもとへ、昔なじみの雨宮紅庵が見知らぬ若い女を連れてきて、その生活の面倒を見てくれと頼む。恋人でもないと言い張る紅庵の奇妙な態度をめぐって、二人の男と女の腹の探り合いが続く。旧仮名で書かれた、長い心理描写の文体が特徴で、安吾の初期の作風を知る手がかりになる。
あらすじ
呉服商の伊東伴作は、昔なじみの雨宮紅庵に頼まれ、蕗子という若い女の生活を月三、四十円で引き受ける。紅庵は三十七歳、定職もなく、将棋や碁から漢詩まで何でもこなす趣味人で、蕗子とは恋愛関係ではないとくどく繰り返す。伴作は二号にするつもりで下宿を世話するが、毎日のように紅庵が入りびたるのが気にかかる。蕗子の望みで秘密に引っ越すと、二週間もたたないうちに今度は蕗子が行方をくらます。引越しを手伝ったのは紅庵らしく、伴作は怒るが、やってきた紅庵はしどろもどろに言い訳する。新しい下宿を訪ねた伴作に、蕗子は自分に夫がいること、その夫が性的に無能であること、紅庵が一年も前から浮気をすすめ、家出を後押ししたことを打ち明ける。伴作は、紅庵が自分の恋を他人の手で遂げさせることで慰めようとしていたのではと考える。蕗子が商売を始めたいと言い出すと、紅庵が同じことを進言し、二人の男は互いの腹をさぐりあう。
登場人物
- 伊東伴作 三十五歳の呉服商。妻子がある。蕗子を二号として世話する
- 雨宮紅庵 三十七歳の趣味人。蕗子を伴作に引き合わせる
- 蕗子 白痴的に静かに見える美しい女。夫のもとから逃げてきた
冒頭部(原文より)
伊東伴作は親代々の呉服商であつた。学問で身を立てようとしたこともあつたが、一向うだつがあがらないので、このごろは親代々の商人になりすましてゐた。 或日雨宮紅庵といふ昔馴染が、見知らない若い女を連れてきて、この人は舞台俳優になりたいさうだが世話をしてくれないかと伊東伴作に頼んだ。
「雨宮紅庵」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
蕗子がさういふ頼りない状態にあり、全く無意識に紅庵の思想の傀儡となつて動くものとしてみると、紅庵のことだからろくなことを吹きこんだ筈がなく、バーでも開いて男を探し、男から男へといふ風に面白おかしく、とでも毎日喋つてゐたのだらうが、それをそつくり実践されては堪らないと伊東伴作は怖れをなして考へた。然しいくら蕗子だつてまさかにそこまでは踊るまいとせいぜい気休めを弄んでゐると、蕗子への愛着はもはや牢固として抜くべからざる妄執に変りはじめてゐたのだつた。
「雨宮紅庵」坂口安吾(青空文庫)
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