濹東綺譚(永井荷風)のあらすじ・登場人物
玉の井の女と老作家の交情
- 詳細なあらすじ
- 人物相関図
- 恋愛
- 心理
- 文字数
- 57,154字
- 読了目安
- 約1時間54分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1937年(昭和12年)に私家版が作られ、同年4月から6月に『東京朝日新聞』へ連載された永井荷風の小説。新聞連載には木村荘八の挿絵が添えられ、8月には岩波書店から単行本が刊行された。小説の背景を探して東京の町を歩く作家「わたくし」は、隅田川東岸の玉の井で、夕立のなか傘に入ってきた女・お雪と知り合う。細い路地、溝、家々の灯、聞こえてくる声やラジオの音が、出会いの場所を具体的に描き出す。構想中の小説『失踪』や、創作についての考えも織り込み、町を歩く体験と物語を書く営みとが重なる構成を持つ。古本や言葉づかい、着物などへの細やかな関心も、変わりゆく東京を見る視線と結びついている。人物を語ることと、その人が生きる土地の空気を写すこととを、切り離さずに進める荷風の文章を味わえる一編である。
あらすじ
老作家の「わたくし」は、失踪した中年男を主人公とする小説「失踪」の題材を求め、隅田川東岸の私娼街・玉の井を歩くようになる。ある雨の夜、軒先で雨宿りするうち、溝際の家に住む娼婦お雪と知り合い、以来素性を明かさぬまま彼女のもとへ通うようになる。金銭ずくでない不思議な情愛を通わせる二人だったが、「わたくし」は齢五十を過ぎた身の上を思い、また土地の風紀取締りが厳しさを増す中で、深入りすることをためらい続ける。作中では並行して、家族を捨てて失踪する架空の主人公・種田順平の物語が構想されていく。秋も深まったある日、「わたくし」はお雪が病に倒れ入院したことを人づてに知り、それを機に東綺譚の筆を擱く決心をする。二人は互いの本名も住まいも知らぬまま、二度と巡り会うことのない別れを迎えるのだった。
登場人物
- わたくし 老境にさしかかった小説家。玉の井を舞台にした小説の取材のため町を歩く語り手
- お雪 玉の井の私娼街で働く娘。素性を明かさぬ「わたくし」と情を通わせる
- 種田順平 わたくしが構想する作中小説「失踪」の主人公。家族を棄てて失踪する私立中学校の英語教師
人物相関図
章ごとの「詳細なあらすじ」
アプリでは、この作品を次の章立てで詳しく読めます(全文はアプリ内)。
- 一 この作品について
- 二 主要人物
- 三 主要なサブキャラクター
- 四 導入──古着の長襦袢と交番
- 五 「失踪」の構想と夕立の晩
- 六 溝際の家──お雪との出会い
- 七 ラビラントの休息所
- 八 別れの決意
- 九 結末と作後贅言
- 十 重要な設定と伏線
冒頭部(原文より)
一 わたくしは殆ど活動写真を見に行ったことがない。 おぼろ気な記憶をたどれば、明治三十年頃でもあろう。神田錦町に在った貸席錦輝館で、サンフランシスコ市街の光景を写したものを見たことがあった。
「濹東綺譚」永井荷風(青空文庫)
末尾部(原文より)
わたくしには親しかった彼の人々は一人一人相ついで逝ってしまった。わたくしもまた彼の人々と同じように、その後を追うべき時の既に甚しくおそくない事を知っている。晴れわたった今日の天気に、わたくしはかの人々の墓を掃いに行こう。落葉はわたくしの庭と同じように、かの人々の墓をも埋めつくしているのであろう。 昭和十一年丙子十一月脱稿
「濹東綺譚」永井荷風(青空文庫)
名文
わたくしは殆ど活動写真を見に行ったことがない。
映画嫌いを述べる何気ない一行から筆を起こす書き出し。玉の井の女お雪との、雨の季節だけの交わりが淡々と語られていく。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。