灯籠(太宰治)のあらすじ・登場人物
世間の目にさらされた娘の独白
- 心理
- 恋愛
- 文字数
- 5,738字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
太宰治が1937年(昭和12年)10月、『若草』に発表した短編。貧しい下駄屋の娘さき子が、世間に後ろ指をさされるようになったいきさつを、女性の一人称で語る告白体の小品。年下の学生・水野三郎への一途な思いと、それがもたらした出来事、そして彼女を取り巻く家族の姿が、素直な語りで追われる。のちに数多く書かれる太宰の女性独白体の、初期の作品にあたる。
あらすじ
二十四歳のさき子は、貧しい下駄屋のひとり娘。年下の学生・水野三郎に一途な思いを寄せ、彼を喜ばせたい一心から、デパートで水泳着を万引きしてしまう。とがめられ、警察にひかれ、さき子の行いは世間に知れわたる。逢う人ごとに警戒され、後ろ指をさされる日々に、彼女はいたたまれず、人目を避けて暮らす。頼みにしていた水野三郎からは、身勝手な言い分をつづった手紙が届き、さき子は彼のほんとうの姿を思い知らされる。だが、罪と恥にまみれたそんなさき子を、両親は変わらず包んでくれる。ある夜、父が茶の間の電球を明るいものに取り替え、親子三人、まぶしい光の下で夕食をとる。私たちは美しいのだ——庭に鳴く虫にまで知らせたいような、静かなよろこびがさき子の胸にこみあげてくるのだった。
登場人物
- さき子 貧しい下駄屋の娘。二十四歳。本作の語り手
- 水野三郎 さき子が思いを寄せる年下の学生
- 父・母 罪を犯したさき子を変わらず包む両親
冒頭部(原文より)
言えば言うほど、人は私を信じて呉れません。逢うひと、逢うひと、みんな私を警戒いたします。ただ、なつかしく、顔を見たくて訪ねていっても、なにしに来たというような目つきでもって迎えて呉れます。たまらない思いでございます。
「灯籠」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
私たちのしあわせは、所詮こんな、お部屋の電球を変えることくらいのものなのだ、とこっそり自分に言い聞かせてみましたが、そんなにわびしい気も起らず、かえってこのつつましい電燈をともした私たちの一家が、ずいぶん綺麗な走馬燈のような気がして来て、ああ、覗くなら覗け、私たち親子は、美しいのだ、と庭に鳴く虫にまでも知らせてあげたい静かなよろこびが、胸にこみあげて来たのでございます。
「灯籠」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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