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死んだ魂(エマ・ゴールドマン)のあらすじ・登場人物

名簿の上の子どもたち

  • 社会
  • 翻訳

エマ・ゴールドマン 訳者 伊藤野枝 1922年(大正11年)10月 「労働運動」

文字数
4,853字
読了目安
約10分
表記
新字旧仮名

この作品について

「子供の保護」に続いて『労働運動』(第三次)第8号、1922年(大正11年)10月1日に載った、エマ・ゴールドマンのロシア見聞記の伊藤野枝訳。題はゴーゴリの長編小説『死せる魂』から取られ、名簿の上にだけ存在する人間を使った不正を、革命後のロシアの子どもの施設に見いだす。役所の手続きと賄賂のしくみ、教育の現場で不正に抗う人々の姿を、筆者自身の見聞として具体的に伝える。

あらすじ

百年前にゴーゴリが『死せる魂』で描いた不正が、革命後のロシアによみがえっていた。子どもの施設は収容人数に応じて食糧の配給を受けるが、役人の署名を得るには賄賂が要るため、多くの施設は架空の子ども、つまり「死んだ魂」を名簿に加え、余分の配給を賄賂に回していた。筆者の友人の舎監はこれを拒んだために長い争いに巻きこまれ、職を追われる。ペトログラードの教育課長リリナは「見世物学校」にかかりきりで、訴えを取り合わなかった。隣室の共産党員の女性もこのやり方と闘っており、託児所に預けた自分の二人の子どもを栄養不足で病気にしていた。指導者の多くは「先天性の道徳的堕落」を信じ、モスクワの監獄には八歳の子どもまで入れられていた。筆者は「道徳的不具者」とされた子どもたちのために働きたいと申し出るが、リリナとの会見でその望みは絶たれる。ウクライナの旅でも同じ光景を見た筆者は、モスクワで不正を拒んだ模範託児所の所長が職を追われ、生後四か月の赤ん坊とともに湿った地下室へ移されるのを目にする。児童労働の廃止だけは評価しつつ、新経済政策がそれをも後戻りさせつつあると結ぶ。

冒頭部(原文より)

 今から百年以前、ゴオゴルは其の傑作『死んだ魂』で同国人を驚かした。それは、ロシアの封建制度と其の寄生虫共を仮借なく非難したものであつた。『死んだ魂』は再びロシアの生活に帰つて来た。  誰が現代の死んだ魂か? それは実際を話す方が一番はつきりするだらう。何処の託児所も、寄宿学校も、感化院も――実際子供と大人とが住んでゐる何処のさうした所にでも、――寄宿舎の数だけ、食物や着物や定食糧やを取る権利を与へられてゐる。  総ての学院では中央分配局の供給にたよつてゐる。或る学院のために必要などんなものを手に入れるにも先づ二十人も三十人ものチノヴニキ、即ち役人の署名と副署とのついた幾つもの命令書を貰はなければならない。

「死んだ魂」エマ・ゴールドマン(青空文庫)

末尾部(原文より)

 ルナチヤルスキイはこんな事を知つてゐるだらうか。共産党の首領等はこれを知つてゐるだらうか。或る人達は勿論知つてゐる。しかし彼等は其の『重要な国事』であまりに多忙なのだ。そして彼等はこんな『些細な事』には無感覚になつてゐるのだ。そして又彼等もやはりボルシエヴイキ官僚政治のからくりの中に巻きこまれてゐるのだ。  尤も、此の共産主義国家が他の政府の上に出てゐる或る一事はあつた。それは子供の労働の廃止だ。これは共産主義者を十分に信用していゝ其の最も重大な成功だ。が、レニンの新経済政策は今、死人をまでも甦らせて、ロシアを資本主義に後戻りさせてゐる。ボルシエヰキ政府はやがて其の豊富な財源と子供の労働とで他の有らゆる文明国の政府と『平等』になるだらう。

「死んだ魂」エマ・ゴールドマン(青空文庫)

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