上杉謙信(吉川英治)のあらすじ・登場人物
壮年の謙信、関東の陣へ
- 歴史
- 冒険
- 文字数
- 128,918字
- 読了目安
- 約4時間18分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 新潟県
この作品について
1942年(昭和17年)1〜5月の『週刊朝日』に連載された吉川英治の歴史小説。永禄4年の正月、33歳の謙信が上州厩橋の城で、上杉憲政や公卿の近衛前嗣とともに酒宴を楽しむ場面から始まる。関東へ出兵している謙信の前には北条氏康があり、和議を結んだ武田信玄の動きも気にかかる。戦場の武将であるとともに、質素な装いを好み、部下の歌や踊りを笑顔で眺める人物として主人公を紹介する。城内の会話や家臣の身の上を挟みながら、各地の勢力が結びつき、互いを探り合う戦国の政治へ視野を広げていく。人物の胸中を語る文章と、軍勢や土地の情勢を説明する文章が交互に現れ、個人の信条と大きな争いとを結びつける構成だ。謙信の全生涯を順にたどる伝記ではなく、壮年の遠征を入口に、その人となりを描く作品である。
あらすじ
永禄四年の正月、三十三歳になった上杉謙信は、関東管領・上杉憲政や公卿・近衛前嗣を迎え、上州厩橋の城内で新春を祝っていた。無邪気で酒を好む一方、深く仏道に帰依し、私欲のためではなく大義のために戦うことを信条とする謙信は、関東出兵や信濃をめぐって宿敵・武田信玄と幾度も干戈を交える。中でも川中島での激闘は、両雄の器量と戦略とがぶつかり合う戦国屈指の名場面として語られる。信玄が塩留めに苦しむ今川・北条方の圧迫を受けた折、謙信が「戦いは弓箭にあり、米塩にあらず」と信玄に塩を送った逸話は、敵将にすら信義を尽くす謙信の人となりを象徴する。将軍足利義輝・義昭に忠誠を尽くし、天下統一を急ぐ織田信長とも対立を深めた謙信であったが、信玄が陣中に病没した五年後、みずからもまた酒を愛したまま忽然とこの世を去る。両雄がともに急な最期を迎えたことに、宿命的なものを感じさせながら物語は幕を閉じる。
登場人物
- 上杉謙信 越後の戦国大名。私欲を離れ、大義と信義のために戦い続ける本作の主人公
- 武田信玄 甲斐の戦国大名。謙信の宿敵にして、互いに認め合う好敵手
- 上杉憲政 関東管領。謙信を頼って越後に身を寄せる
- 近衛前嗣 関白家の嫡子。謙信のもとを訪れる公卿
- 足利義輝・義昭 室町幕府の将軍。謙信が終生忠誠を尽くす主君
- 織田信長 天下統一を急ぎ、謙信と対立を深める戦国大名
冒頭部(原文より)
生ける験あり この正月を迎えて、謙信は、ことし三十三とはなった。 まだ弱冠といっていい。それなのに、服色も装身のすべても、ひどく地味好みであった。長袖の羽織も山繭織の鶯茶の無地ですましている。
「上杉謙信」吉川英治(青空文庫)
末尾部(原文より)
日頃の謙信は実に強壮快健であったが、ただ酒を好んだ。彼が愛用したという馬上杯など、後々まで遺族や家臣の涙をそそった。今に上杉神社に遺っている日常の酒盃などもおそろしく大杯である。肴などに好みはなく時としては梅干一つで、斗酒を傾けたとあるからその快飲ぶりは想像に難くない。 むかしよりさだめし 四方にたち返り 治めさかふる 千代のしら雪 これは彼の旧作だ。若年上洛した折、将軍義輝と一夜雪見を催しながら詠み出でた一首という。 雪一色の美に寄せて、そのときもう胸に抱いていた復古の精神を吐いている。また雪よりも純な国体観を洩らしている。 義輝はこのときまだ弱冠十九歳の将軍だった。果たして彼の理想を汲み得たろうか否かわからない。しかし謙信は、その義輝が非業の死をとげ、次代の義昭将軍となっても、なお情誼を変えなかった。倒れんとする室町幕府を隠然扶けるに大いな力をかしていた。 為に、彼は信長と対立した。信長は彼とはまったく反対な倒壊者である。当然な衝突は、外交に軍事に、熾烈に闘わされた。
「上杉謙信」吉川英治(青空文庫)
原文を読む
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