楠山正雄の名文

楠山正雄の作品から、よく知られた一節を集めました。

13件

一寸法師

それから新しいおわんのお舟に、新しいおはしのかいを添えて、住吉の浜から舟出をしました。

針の刀を腰に、おわんの舟とおはしのかいで都へ旅立つ一寸法師。小さな主人公の門出を描く名場面だ。

金太郎

何だ、熊のくせに。金太郎を知らないか。

足柄山の森で大きな熊に出会った金太郎の一言。このあと熊を投げ飛ばして家来にする、怪力の子らしい啖呵だ。

桃太郎

ドンブラコッコ、スッコッコ。

川上から大きな桃が流れてくる場面の擬音。楠山正雄の再話では、この節をつけた響きで桃がおばあさんの前へ流れ寄る。

お腰に下げたものは、何でございます。

犬や猿が桃太郎を呼び止めるときの問い。答えは「日本一のきびだんごさ」。家来が一匹ずつ加わる場面で繰り返される。

花咲かじじい

するとどうでしょう、そこらに枯れ木のまま立っていたうめの木や、さくらの木が、灰をかぶると、みるみるそれが花になって、よそはまだ冬のさなかなのに、おじいさんのお庭ばかりは、すっかり春げしきになってしまいました。

白の形見の灰をまくと、枯れ木が一斉に花ひらく。冬のさなかに庭だけが春になる、話の頂点の情景だ。

花咲かじじい、花咲かじじい、日本一の花咲かじじい、枯れ木に花を咲かせましょう

灰をかかえて町をゆく正直おじいさんの呼び声。題名にもなった、昔話でいちばん知られた決まり文句だ。

ねずみの嫁入り

それはだれでもない、そういうねずみさんさ。わたしがいくらまっ四角な顔をして、固くなって、がんばっていても、ねずみさんはへいきでわたしの体を食い破って、穴をあけて通り抜けていくじゃないか。

日、雲、風と婿をたずね歩いた末に、壁が明かす答え。いちばんえらいのは自分たちだったという、昔話のおちの一節だ。

舌切りすずめ

おじいさん、重いつづらに、軽いつづらです。どちらでもよろしい方をお持ち下さい。

すずめのお宿を訪ねたおじいさんに、すずめが二つのつづらを差し出す。欲のない選択が幸いを呼ぶ、話の分かれ目だ。

猿かに合戦

早く芽を出せ、柿の種。

かにが柿の種をまいて唱える言葉。「出さぬと、はさみでちょん切るぞ」と続き、芽、木、実と節を変えて繰り返される。

浦島太郎

するとむらさき色の雲が、なかからむくむく立ちのぼって、それが顔にかかったかとおもうと、すうっと消えて行って箱のなかにはなんにものこっていませんでした。

乙姫さまとの約束を忘れて浦島が玉手箱をあけた瞬間。むらさきの雲が消えたあと、浦島は白髪のおじいさんになっている。

かちかち山

うさぎさん、うさぎさん、かちかちいうのは何だろう。

火打ち石の音をいぶかるたぬきの問い。うさぎは「この山はかちかち山だからさ」と答える。題名の由来となったやりとりだ。

一本のわら

おやおや、一本のわらが大きなみかん三つになった。

観音さまのお告げで拾ったわらがあぶに、あぶがみかんに変わったときの若者の喜び。わらしべ長者の物語の最初の一歩だ。

ジャックと豆の木

豆の木は、それこそほうずのしれないたかさに、空の上までものびていました。つると葉とがからみあって、それは、空の中をどんとつきぬけて、まるで豆の木のはしごのように、しっかりと立っていました。

牝牛と引き換えた豆が一晩で天まで伸びた朝の光景。ジャックの冒険はこの「豆の木のはしご」から始まる。

この作家について

楠山正雄