浦島太郎(楠山正雄)のあらすじ・登場人物
この箱をあけてはなりませぬ
- 幻想
- 文字数
- 5,599字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 舞台
- 京都府
この作品について
助けた亀に連れられて竜宮へ行き、やがて玉手箱を手に地上へ戻る——日本でもっとも有名な昔話の一つを、楠山正雄が再話した一編。玉手箱の中身をめぐる結びが印象深い。
あらすじ
むかし、丹後の国水の江の浦に浦島太郎という漁師がいた。ある日、子どもたちが小さな亀をいじめているのを見かねて、銭を払って買いとり、海へ返してやる。二、三日後、沖で釣りをしていると「浦島さん、浦島さん」と呼ぶ声がして、あの亀が舟のそばへ寄ってきた。お礼に竜宮へお連れしますと言われ、浦島は亀の背に乗って海の底へ向かう。たどりついた竜宮城では、美しい乙姫がむかえてくれた。四方の戸の向こうに春夏秋冬の景色がひろがり、腰元たちの歌や踊りを楽しんで、浦島は三年をそこで過ごす。だが故郷の父母が気にかかり、いとまを告げると、乙姫は玉手箱を渡してこう言った。竜宮へ帰ってきたいなら、けっしてこの箱をあけてはなりませぬ、と。浜へ帰ってみると、そこはまるで知らない土地だった。家も両親もなく、人にたずねても、浦島太郎という漁師の話は三百年も昔のことだと言われるばかり。竜宮へ戻る手だてを失った浦島は、箱をあけたら何かわかるかもしれないと思い、乙姫の言いつけを忘れてふたを取った。紫色の雲がむくむくと立ちのぼって顔にかかり、消えたときには、顔じゅう皺だらけの、髪もひげもまっ白なおじいさんになっていた。「なるほど、乙姫さまが、人間のいちばんだいじなたからを入れておくとおっしゃったあれは、人間の寿命だったのだな」——浦島は残念そうにつぶやいた。春の海はどこまでも遠くかすんでいた。
登場人物
- 浦島太郎 丹後の国水の江の浦の漁師
- 亀 いじめられていたところを助けられる
- 乙姫さま 竜宮城の主。玉手箱を渡す
冒頭部(原文より)
むかし、むかし、丹後の国水の江の浦に、浦島太郎というりょうしがありました。 浦島太郎は、毎日つりざおをかついでは海へ出かけて、たいや、かつおなどのおさかなをつって、おとうさんおかあさんをやしなっていました。 ある日、浦島はいつものとおり海へ出て、一日おさかなをつって、帰ってきました。
「浦島太郎」楠山正雄(青空文庫)
末尾部(原文より)
浦島はからになった箱のなかをのぞいて、 「なるほど、乙姫さまが、人間のいちばんだいじなたからを入れておくとおっしゃったあれは、人間の寿命だったのだな」 と、ざんねんそうにつぶやきました。 春の海はどこまでも遠くかすんでいました。どこからかいい声で舟うたをうたうのが、またきこえてきました。 浦島は、ぼんやりとむかしのことをおもい出していました。
「浦島太郎」楠山正雄(青空文庫)
名文
するとむらさき色の雲が、なかからむくむく立ちのぼって、それが顔にかかったかとおもうと、すうっと消えて行って箱のなかにはなんにものこっていませんでした。
乙姫さまとの約束を忘れて浦島が玉手箱をあけた瞬間。むらさきの雲が消えたあと、浦島は白髪のおじいさんになっている。
原文を読む
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