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顎十郎捕物帳 遠島船(久生十蘭)のあらすじ・登場人物

二十三人が消えた無人の遠島船

  • ミステリ
  • 歴史

久生十蘭 1940年(昭和15年)6月 「新青年」

文字数
12,621字
読了目安
約25分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

久生十蘭の「顎十郎捕物帳」の一編。連作の多くは六戸部力の名義で雑誌『奇譚』に載ったが、本編は1940年(昭和15年)の『新青年』に発表された。主人公の仙波阿古十郎は、長い顎から「顎十郎」と呼ばれる北町奉行所の例繰方で、茫洋とした顔つきの裏に鋭い推理を秘めている。本編は、文久二年の相模灘で、囚人を伊豆七島へ送る遠島船が、炊きかけの飯や書きかけの手紙を残したまま、役人・船頭・囚人の二十三人ごと無人で漂っていた怪事件。海の上の消失の謎に、顎十郎が江戸の陸の上から挑む。

あらすじ

文久二年四月十七日の明け方、伊豆の鰹船が相模灘の沖で、帆を垂らしたまま漂う一艘の船に行きあう。船印は縁起の悪い遠島船。乗り移ってみると、釜場では二番炊きの飯が噴きこぼれかけ、役人溜りの硯の水もまだ乾かない。それなのに、二日前に品川を出た三崎丸の役人五人・船頭水主十一人・囚人七人、合わせて二十三人の姿はどこにもなかった。争った跡もなく、艀舟も残っている。北町奉行所の例繰方・仙波顎十郎は、手先のひょろ松と船を見た帰り、送られた囚人のなかに大盗・伏鐘の重三郎がいたことを聞き出し、船頭宿で亡き者の百万遍が唱えられるなか、ひとりだけ落ち着きはらった若い女房お静に目をとめる。顎十郎はお静を呼び出し、楫取の夫・弥之助が生きていることを言い当てる。船頭たちは、島の流人へ品物や手紙をこっそり届ける「ホマチ」の弱みを伏鐘一味に握られ、船を明け渡して死んだことにしていたのだ。弥之助は、お静の家と塀ひとつ隔てた石川島の人足寄場に身を隠していた。囚人の受け渡しも、一味が偽の役人と偽の囚人を仕立てて二つの河岸で入れ替えたもの。三崎丸ははじめから無人のまま風に流され、釜の火は、硫黄と焔硝で時を遅らせて燃え出させる信玄の「陣中遠狼煙の法」の仕掛けだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

   初鰹 「船でい」 「おお、船だ船だ」 「鰹をやれ、鰹をやれ」

「顎十郎捕物帳 遠島船」久生十蘭(青空文庫)

末尾部(原文より)

「これは、おれの智慧でもなければ、伏鐘の智慧でもない。信玄の『陣中遠狼煙の法』といって、うかつには行けない山の頂上などに仕掛けた狼煙を、こちらが思うころにひとりでに挙げさせようというとき、むかしさんざ使われていた古い術なんだ」

「顎十郎捕物帳 遠島船」久生十蘭(青空文庫)

原文を読む

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