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顎十郎捕物帳 菊香水(久生十蘭)のあらすじ・登場人物

御馳走に釣られた名探偵、絶体絶命

  • ミステリ
  • 歴史

久生十蘭 1939年(昭和14年)12月 「奇譚」

文字数
12,494字
読了目安
約25分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

久生十蘭が1939年(昭和14年)から雑誌『奇譚』に六戸部力の名義で連載した「顎十郎捕物帳」の一編。主人公の仙波阿古十郎は、馬鹿長い顎から「顎十郎」「顎化け」と呼ばれる北町奉行所の帳面繰りで、のんびりした食いしん坊ながら江戸一の捕物名人と噂される。本編では、大名家の留守居から「尊大な様子で褥に座り、何なりと横柄にお申しつけください」という奇妙な招待状が届き、顎十郎は御馳走めあてに屋敷の数寄屋へ出かけていく。美しい腰元の酌で上機嫌になった顎十郎を待っていたのは、思いもよらぬ窮地だった。滑稽な掛け合いと、ささやかな手がかりからの逆転が楽しい一編。

あらすじ

本郷の裏長屋に住む顎十郎のもとへ、臼杵五万二千石・稲葉能登守の留守居、溝口雅之進から手紙が届く。高位の人命にかかわる件で知恵を借りたい、ついては裏木戸から数寄屋へ入り、緋色の褥に尊大に座って酒肴を何なりと申しつけてほしい、という人を食った文面だった。食い意地の張った顎十郎は、言われるまま手紙を使いに返して四谷の屋敷へ出向く。数寄屋に現れたのは、不思議な香りをただよわせる美しい腰元の小波。殿様の紋付まで着せかけられ、橋善の板場が仕立てる料理で大はしゃぎするうち、小波は姿を消す。そこへ踏み込んできたのは宿敵の南町奉行所与力・藤波友衛だった。屋敷の金蔵が破られており、顎十郎は夜番の目をそらす盗賊の用心棒と見なされて縄を打たれる。揚屋で考え込んだ顎十郎は、あの香りは茶室で焚いた香ではなく小波の身についていたものだと気づき、藤波を言いくるめて香木五十八種と江戸じゅうの髪油・匂油を取り寄せる。一つずつ聴き分けた末、香りの正体は芝神明の店で売り出したばかりの舶来の匂水「菊香水」と突きとめられた。買った女はわずか二三人で、女賊の小波はその店の裏に住む顔なじみの客だった。濡れ衣は晴れたが、顎十郎は食い気に負けて嵌められた不面目を理由に辞表を出し、飄々と宿を出ていく。

登場人物

冒頭部(原文より)

   恍けた手紙 「……手紙のおもむき、いかにも承知。……申し越されたように、この手紙の余白に、その旨を書きつけておいたから、これを御主人に差しあげてくれ」 「それで、御口上は?」

「顎十郎捕物帳 菊香水」久生十蘭(青空文庫)

末尾部(原文より)

 一日おいてそのあくる日、顎十郎は書状をもってお役御免をねがい出た。書状には……性来下司にして、口腹の欲に迷い、ウマウマ嵌められました段、まことに面目次第もこれなく、……と書いてあった。本気のようでもあり、また、恍けているようでもある。藤波は平身低頭して引きとめたが、顎十郎は袖をはらって、本郷真砂町の宿から飄々と出て行ってしまった。

「顎十郎捕物帳 菊香水」久生十蘭(青空文庫)

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