悪魔(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
南蛮宣教師が語る悪魔譚
- 幻想
- 文字数
- 1,549字
- 読了目安
- 約3分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 京都府
この作品について
芥川龍之介が1918年(大正7年)に書いた切支丹もの(キリシタン物)の一編。織田信長の時代、南蛮の宣教師ウルガンが語る「悪魔」の物語を枠として、人間の眼には見えぬ地獄の悪魔たちが京の町にひそみ、人々を誘惑してまわるさまが、古写本の伝えるところとして綴られる。とりわけ、ある姫君の輿の上にあぐらをかいていたという悪魔をめぐる挿話が中心に据えられる。異国の視点から描かれた幻想的な小品であり、芥川らしい知的な短編である。
あらすじ
南蛮の宣教師ウルガンの青い瞳には、常人には見えぬものまでが見えたという。ことに、人間を誘惑しにやって来る地獄の悪魔の姿は、ありありとその形が見えたと、南蛮寺に集う信徒たちは信じて疑わなかった。古い写本の伝えるところによれば、ウルガンは織田信長の前で、自分が京都の町で見た悪魔のありさまを物語ったという。それは人間の顔と蝙蝠の翼と山羊の脚を備えた、奇怪で小さな生きもので、あるいは塔の九輪の上で手を打って踊り、あるいは僧の背にしがみつき、女房の髪にぶら下がっていた。数ある悪魔の話のうち最も興味深いのは、ある姫君の輿の上にあぐらをかいていたという一匹をめぐる挿話である。写本の作者は、これをウルガンが信長を諫めるために語った寓意だと解している——信長が姫君に懸想して意に従わせようとしたのを、ウルガンが悪魔にことよせて暴を戒めたのだ、と。だが、その解釈の当否は、もはや今日では定めようもない。ウルガンよ、悪魔とともに我々を憐れんでくれ——我々にもまた、それと同じような悲しさがある。写本を読む者に、悪魔への奇妙な同情を呼び起こして、物語は静かに閉じられる。
登場人物
- うるがん 南蛮の宣教師
- 織田信長 うるがんの物語を聞く天下人
冒頭部(原文より)
伴天連うるがんの眼には、外の人の見えないものまでも見えたさうである。殊に、人間を誘惑に来る地獄の悪魔の姿などは、ありありと形が見えたと云ふ、――うるがんの青い瞳を見たものは、誰でもさう云ふ事を信じてゐたらしい。少くとも、南蛮寺の泥烏須如来を礼拝する奉教人の間には、それが疑ふ余地のない事実だつたと云ふ事である。
「悪魔」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
古写本の伝説は、この悪魔のなり行きを詳にしてゐない。が、それは我々に何の関りがあらう。我々はこれを読んだ時に、唯かう呼びかけたいやうな心もちを感じさへすれば好いのである。…… うるがんよ。悪魔と共に我々を憐んでくれ。我々にも亦、それと同じやうな悲しさがある。
「悪魔」芥川龍之介(青空文庫)
原文を読む
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