織田信長(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
死のふは一定、天下は何物か
- 歴史
- 文字数
- 17,924字
- 読了目安
- 約36分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 愛知県
この作品について
1948年(昭和23年)、「季刊作品」創刊号に発表された坂口安吾の歴史小説。未完。朝廷からの綸旨を携えた使者が清洲を訪れる場面から筆を起こし、野良犬の親分のように野放しに育った三十四歳の信長を描いてゆく。蛇池の大蛇を見るために自ら褌ひとつで水にもぐる好奇心、長槍と鉄炮に切り替えた用心深さ。安吾はその根に「怖れ」と「科学する魂」を見て、信長を「悪魔」と呼ぶ。「死のふは一定」——信長が好んだ小唄の一句を軸に、天下も野心も何物でもないという地点から、この男の生を照らし出した一編である。
あらすじ
立入左京亮が綸旨二通と女房奉書をたずさえて清洲を訪れたとき、信長は鷹狩に出ていた。朝廷の窮乏はひどく、皇太子の元服の費用も御所の修理もままならない。松永弾正という老蝮の睨みを恐れながらも、万里小路大納言は困った困ったと呟きつつ綸旨を書いた。それは要するに借金の依頼のようなものだったが、頼まれるだけの実力を認められたということでもある。信長は元気百倍、雁と鶴を捕らせて使者を饗応した。そのとき三十四歳。誰の言いつけも聞かず、我流でデッチあげた腕白大将である。二十八の頃には、鷹を贈られて「天下をとるまで預っておく」と言ってのけた。だが彼には、少年時代に短槍の不利をさとって三間半の長槍を用意させ、次いで鉄炮に主戦武器を切り替えた用心深さがあった。その裏にあるのは怖れである。安吾は、蛇池の大蛇を見物するために自ら水にもぐった信長に、最も稀な「科学する魂」を見出す。蛇に食われて死んでもよかった。一皮めくれば、死のうは一定、それだけのことではないか——そう言いきる者にとって、天下統一も野心も何物でもない。やがて信長は足利義昭を奉じて京へなだれ込み、老蝮・松永弾正と不可思議な友情を結ぶ。
登場人物
- 織田信長 清洲の城主。野放しに育った腕白大将で、怖れを知るがゆえに長槍と鉄炮を選んだ男
- 松永弾正久秀 蛇とも妖怪ともつかない老蝮。天下の権を握りながら、戦は強くない
- 立入左京亮 朝廷の使者。綸旨二通と女房奉書をたずさえて清洲を訪れる
- 武田信玄 信長を正しく評価しながら、その好奇心の底にあるものを理解し得なかった男
- 足利義昭 信長に奉じられて上洛し、将軍の位につく
冒頭部(原文より)
死のふは一定、しのび草には何をしよぞ、一定かたりをこすよの ――信長の好きな小唄―― 立入左京亮が綸旨二通と女房奉書をたずさえて信長をたずねてきたとき、信長は鷹狩に出ていた。 朝廷からの使者は案内役の磯貝新右衛門久次と使者の立入とたった二人だけ、表向きの名目は熱田神宮参拝というのである。
「織田信長」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
老蝮は命が助かったばかりではなく、信貴の本城をそのまゝ許され、大和一国はその切りとりに任かされたのである。 悪魔同志の友情であった。老蝮はさっそく御礼に参上して、最も熱心に、そのウンチクをかたむけて、あれかれと政治むきの助言をしていた。この不可思議の友情は、然し、大いに清潔なものであったと云わねばならぬ。人間どもには分らない謎なのである。そもこの友情はいかに育ち、いかに破れるに至るであろうか。 (未完)
「織田信長」坂口安吾(青空文庫)
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