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明治開化 安吾捕物 その十 冷笑鬼(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

肉親を憎み合わせて笑う老人

  • ミステリ
  • 歴史

坂口安吾 1951年(昭和26年)8月 「小説新潮」

文字数
23,522字
読了目安
約47分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

坂口安吾の連作探偵小説「明治開化 安吾捕物」の第十話で、1951年(昭和26年)8月の「小説新潮」に掲載された。目白の高台に隠居する元三千六百石の旗本水野左近は、維新を境に子どもたちを奉公や養子に出し、妻に飯も満足に与えない吝嗇家だった。暇を取った馬丁が隣家の物好きな隠居に語る主家の内幕は、金を餌に肉親どうしを憎み合わせ、その顔を眺めて薄笑いを浮かべる老人の姿である。五年越しに仕組まれた「財産分け」の一夜に、何が起きるのか。人の悪意そのものを描いた、シリーズ屈指の異様な一編。

あらすじ

目白の隠宅に住む元旗本水野左近は、維新とともに子らを菓子屋の小僧や寺の養女に出し、玄関もない牢屋のような家で、妻ミネにも満足に食べさせない守銭奴であった。暇を取った馬丁の倉三は、隣家の大原草雪に主家の内幕を語る。五年前、左近は公金に穴をあけたミネの子幸平に一万七千円の預金を下ろして持って来させると、目の前でその金を、勘当した長男で幇間の志道軒ムラクモと、ムラクモが女中に生ませた孫の板前常友とに貸し与え、幸平の顔を見て薄笑いを浮かべたのだという。その返済期限の明日、左近は一同を集めて「財産分け」をすると告げていた。金を兄の正司に渡して弟と争わせ、常友を跡継ぎと定めて、その前に万一のことがあればムラクモの子久吉が継ぐとし、肉親が殺し合うのを見物しようというのである。翌日、家は内側から閉ざされ、ミネは喉を突いて自害し、左近は自室で背中を刺されて死んでいた。周りには鞘を払った刀が散らばっていた。泊まった四人の男は、夜中に暗闇の天井から抜き身が降ってきて互いに身構えていたと口をそろえる。警察はミネの夫殺しと断定したが、新十郎は勝海舟の前で謎を解く。刀を投げ込んだのは左近自身で、内側の閂を外せたのは同室の久吉しかいない。常友を殺すより左近を殺すほうが確実に久吉を跡継ぎにでき、しかも疑いは他の者に向く。剣の心得のあるムラクモが息子に閂を外させ、騒ぎに乗じて父を刺したのである。ミネは自分の子のしわざと思い、罪をかぶって死んだのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

「隣家に奉公中は御親切にしていただきましたが、本日限りヒマをいただいて明朝帰国いたしますので……」  と、隣家の馬丁の倉三が大原草雪のところへ挨拶に上ると、物好きでヒマ人の草雪はかねてそれを待ちかねていたことだから、

「明治開化 安吾捕物 その十 冷笑鬼」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 新十郎が語り終ると海舟がうなずいて、 「なるほど。だが、左近を必ずしも悪しざまには云えまい。人が悪魔たることはボンクラにまさること数千倍。非凡であるな」  虎之介がギョッとしてマンまるい目の玉をむいた。

「明治開化 安吾捕物 その十 冷笑鬼」坂口安吾(青空文庫)

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