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明治開化 安吾捕物 その十二 愚妖(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

汽車に轢かれた男と牛に突かれた男

  • ミステリ
  • 歴史

坂口安吾 1951年(昭和26年)10月 「小説新潮」

文字数
27,839字
読了目安
約56分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 神奈川県

この作品について

坂口安吾の連作探偵小説「明治開化 安吾捕物」の第十二話で、1951年(昭和26年)10月の「小説新潮」に掲載された。「鉄道自殺」という言葉もなかった明治の昔、東海道線の国府津と松田の間、相模の下曾我村で、小田原の遊女屋の主人が汽車に轢かれて死ぬ。続いて丹沢の山奥では、その商売敵の銭湯の主人が牛の角に突かれて息絶えていた。真相を追うのは、上役に相手にされない村の駐在巡査菅谷である。目のただれた山男、怪力の大女、大きな耳の亭主――村の風変わりな人々が入り乱れる、土の匂いの濃い異色作。

あらすじ

下曾我村の線路で、小田原の遊女屋式根楼の主人ガマ六が夜汽車に轢かれてばらばらになって見つかる。着流しに草鞋という妙な姿で、懐の大金も菅笠も消えていたが、警察は酒に酔っての事故と片づけた。駐在の菅谷巡査だけは納得できずにいると、まもなく丹沢山中の檜の谷から血まみれの牛が村へ駆け戻り、谷ではガマ六の商売敵で銭湯「花房の湯」の主人雨坊主が、牛の角に突かれて死んでいた。牛の飼い主で目のただれたナガレ目は、谷でひそかに檜を盗み伐りしていたが、伐ったのは怪力の大女オタツだと言い張り、二人は警察で言い争う。菅谷は遊女屋に客として上がり、ナガレ目が相模の山奥の娘を二人の主人に世話していたことや、花房と仲違いした質屋の息子の噂を聞き出す。手に余った菅谷は新十郎を訪ね、犯人を決めつけず、被害者たちが人目につかずに谷へ向かった方法を探れと助言される。山寺の裏手に、かつてナガレ目が使った炭焼き小屋が残っており、そこからガマ六の煙管と血のついた筵が見つかった。勝海舟はオタツの犯行と見立てるが、虎之介は耳を貸さない。新十郎は、二人の主人の朝湯の習慣が変わった時期から、ナガレ目が花房の湯の札を裏返して呼び出しの合図にしていたことを突きとめる。小屋で被害者と一夜を過ごし、大金に目がくらんで殺したのはオタツであった。草履ばきの雨坊主にまで草鞋をはかせた田舎者の思い込みが、犯人を示していたのである。

登場人物

冒頭部(原文より)

 近ごろは誰かが鉄道自殺をしたときくと、エ? 生活反応はあったか? デンスケ君でも忽ちこう疑いを起すから、ウカツに鉄道自殺と見せかけても見破られる危険が多い。けれども明治の昔にこの手を用いて、誰に疑われもしなかったという悪賢い悪漢がいたかも知れない。法医学だの鑑識科学が発達していないから、真相を鑑定することができないのである。指紋が警察に採用されたのが明治四十五年のことだ。

「明治開化 安吾捕物 その十二 愚妖」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 海舟の前へ現れて物も云わずに平伏したまま五分たっても頭をあげないのは虎之介であった。彼の頭は青坊主である。スッカリ頭を涼しくそり清めてきたのは敗北のシルシであろうか。その頭を見ると、「石」という字が書いてある。頭へどうやって字をかいたかと、海舟が一膝よせてよく見ると、これが頭の中央へお灸をすえて字の形を表したものだ。字をかきあげるまで一時間もかかったろう。石という字は石頭をわびる意を現しているのかも知れない。 「書かなくとも分ってらア。ムダなことをする奴だ」  海舟は笑った。それをきくと虎之介は罪の許しを得たと解して安心したのか、頭を起して、 「今後は夕食後に参ります」  と、ムッツリと妙なことを一言云って帰って行った。

「明治開化 安吾捕物 その十二 愚妖」坂口安吾(青空文庫)

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