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明治開化 安吾捕物 その十七 狼大明神(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

神の矢と天狗の面のたたり

  • ミステリ
  • 歴史

坂口安吾 1952年(昭和27年)5月 「小説新潮」

文字数
26,084字
読了目安
約52分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 埼玉県
  • 東京都

この作品について

坂口安吾の連作探偵小説「明治開化 安吾捕物」の第十七話で、1952年(昭和27年)5月の「小説新潮」に掲載された。日本橋の呉服商蛭川家の庭には、亡き母が朝夕欠かさず拝んでいた小さな稲荷の祠がある。その名は「オーカミイナリ」――故郷の武蔵北端、児玉郡の山奥にまつられる、天狗のような顔の神主が守る怪しげな神社である。ある朝、祠の中から当主の名を記した位牌が見つかり、その夜、当主は朱塗りの神の矢に胸を射抜かれて死ぬ。新十郎一行は十五年前の故郷の因縁をたどって、武蔵の古代史の伝承が息づく山里へ旅に出る。

あらすじ

日本橋の呉服商蛭川商店の娘由利子は、亡母の遺言で庭の稲荷に日参していた。ある朝、祠の中に父真弓の名と享年を記した位牌が入っており、裏は郷里の「オーカミイナリ」のお札だった。その夜、真弓は寝間で朱塗りの矢に心臓を射抜かれ、顔に天狗のような猿田彦の面をかぶせられて死んでいた。番頭の川根は、十五年前に郷里で先代の番頭今居定助が同じ神の矢で殺されたと語る。当時、真弓はオーカミイナリの古文書を借り出して火事で焼いてしまい、神主の怒りを買っていたのである。新十郎は祠の中に裏返しに打ちつけられた板に、稲荷の神名と並んで「今居定助明神」と書かれているのを見つけ、一行は埼玉の児玉郡へ向かう。村では、同じころ富豪加治家の土蔵から金箱二十二箱が盗まれ、神の矢が門に突き立っていたことを聞く。定助は神社の祖神の陵とされる古墳で、穴を掘っている最中に射殺されていた。山奥の社には天狗のような顔の神主が年に三十本の神の矢を作っており、そのうち一本が消えていた。社のまわりには、没落した加治景村や定助の息子伊之吉が小屋を建てて暮らしている。新十郎は一夜で山を往復して矢と面を持ち帰り、矢の一本を伊之吉の小屋の戸に突き立てておく。翌日、伊之吉は真弓を殺したと書き置いて姿を消していた。土蔵破りは真弓と定助の二人の仕業で、口封じに定助を古墳へ誘い出して殺したのは真弓だったのである。伊之吉は加治から聞いた背負い籠の話で、父の仇を知ったのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 庭の片隅にオイナリ様があった。母が信心していたのである。母が生きていたころは、風雨に拘らず朝夕必ず拝んでいた。外出して夜更けに帰宅することがあっても、家人への挨拶もそこそこに、オイナリ様を拝んでくるのが例であった。朝夕の参拝を果さぬうちは、昼と夜の安らぎが得られぬように見えるほど切実な日参だった。しかし、母以外の者は一人も拝みに行く者がなかった。  母が病床についてから死に至るまでの一月ほどは、由利子が朝夕代参を命じられた。

「明治開化 安吾捕物 その十七 狼大明神」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 語り終って、新十郎は花廼屋に言った。 「あなたの推理は見事でした。もう一つ裏を返して、天狗の顔の神主以外の者が猿田の面をかぶって道中することも、そこに神の介在を考えさせ、探偵たちの考えが彼から遠ざかるという役に立つ手段であることを考える必要があったでしょう。しかし、とにかく、本格的な着想でしたよ」  花廼屋は喜色満面、いつまでも無言でニヤニヤ笑っていたが、虎之介はむくれて、これも口をきかなかった。

「明治開化 安吾捕物 その十七 狼大明神」坂口安吾(青空文庫)

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