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或阿呆の一生(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

五十一の断章が刻む半生

  • 心理

芥川龍之介 1927年(昭和2年)10月 「改造」

文字数
12,649字
読了目安
約25分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

芥川が自殺の直前に書き上げ、友人の久米正雄に託した遺稿的な自伝的作品。「一 時代」から「五十一 敗北」まで、五十一の短い断章によって、作者の経験を反映した一人の芸術家の半生を、詩的で鋭い断片として綴る。人生・芸術・狂気・死をめぐる箴言のような文章が連なり、「ぼんやりした不安」に追い詰められていく作家の精神の軌跡が刻まれる。「歯車」とともに、芥川最晩年の到達点を示す作品として読まれる。

あらすじ

「僕はこの原稿を発表する可否は勿論、発表する時や機関も君に一任したい」——芥川が友人の久米正雄に宛てた前書きから、この作品は始まる。本文は「一 時代」に始まり「五十一 敗北」に終わる、五十一の番号を付された短い断章から成る。丸善の書棚の前で人生を見下ろしたような青年時代の高揚、師や友人たち、恋と結婚、創作の歓喜と苦悩、狂気への恐れ、そして肉親や社会との軋轢——芥川自身の半生をなぞる出来事の数々が、説明を排した鋭い断片として次々に描き出される。時を追うごとに、光よりも影が、生よりも死の影が色濃くなり、「彼」は神経と肉体をすり減らしていく。最後の断章「敗北」では、ペンを執る手も震え、ヴェロナール(睡眠薬)を用いて目覚めた後の短い間だけ頭がはっきりする「彼」が、刃こぼれした細い剣を杖にするようにして、その日暮らしの生を辛うじて支えている——と描かれ、作品は閉じられる。

登場人物

冒頭部(原文より)

僕はこの原稿を発表する可否は勿論、発表する時や機関も君に一任したいと思つてゐる。

「或阿呆の一生」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

彼はペンを執る手も震へ出した。のみならず涎さへ流れ出した。彼の頭は〇・八のヴエロナアルを用ひて覚めた後の外は一度もはつきりしたことはなかつた。しかもはつきりしてゐるのはやつと半時間か一時間だつた。彼は唯薄暗い中にその日暮らしの生活をしてゐた。言はば刃のこぼれてしまつた、細い剣を杖にしながら。

「或阿呆の一生」芥川龍之介(青空文庫)

名文

「人生は一行のボオドレエルにも若かない。」

書店の梯子の上から人々を見下ろす場面の一句。遺稿となった自伝的断章の冒頭に置かれ、芥川の芸術至上の姿勢と底の見えない絶望を映す。

彼は唯薄暗い中にその日暮らしの生活をしてゐた。言はば刃のこぼれてしまつた、細い剣を杖にしながら。

自伝的な断章集の最終章「敗北」の結び。力尽きかけた自らの晩年を、刃こぼれした細い剣を杖にする姿で描いた、痛切な自画像。

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

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