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或日の大石内蔵助(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

英雄像と生身の内面の乖離

  • 歴史
  • 心理

芥川龍之介 1917年(大正6年)9月 「中央公論」

文字数
8,831字
読了目安
約18分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

赤穂浪士の討ち入りを成し遂げた大石内蔵助の、細川家お預かり中のある一日を描いた歴史小説。本懐を遂げた英雄として周囲から賞讃を浴びるなかで、内蔵助は、かつて敵を欺くために遊興に耽った日々が「苦肉の計」として褒めそやされることに、言いようのない不快と寂しさを覚える。世間が作り上げる英雄像と、生身の人間の内面との乖離を静かに掘り下げた作品で、芥川の醒めた心理描写が冴える一編である。

あらすじ

主君の仇を討ち、細川家に預けられた大石内蔵助は、同志たちと穏やかな日々を送っている。討ち入りの本懐を遂げた今、彼らは義士として世間から尊敬を集め、細川家の家臣たちも敬意を惜しまない。しかし内蔵助の心は晴れない。同志の一人が、内蔵助がかつて敵方の間者を欺くために京の遊里で遊蕩三昧の日々を送った逸話を、「敵を欺く苦肉の計」として得意げに語るのを聞くうち、彼はその放埓が本当に策略のためだけだったのか、自分でも確信が持てなくなる。あの遊興のうちには、たしかに我を忘れて楽しんだ瞬間があった——それを忠義の手段として一途に賞讃されることに、内蔵助は欺瞞とうしろめたさを感じる。世間の誤解のうちに自分の生も死も伝えられていくのだと思いながら、彼はひとり縁側に立ち、寒梅の老木に咲く花を仰いで、名状しがたい寂しさに包まれるのだった。

登場人物

冒頭部(原文より)

立てきった障子にはうららかな日の光がさして、嵯峨たる老木の梅の影が、何間かの明みを、右の端から左の端まで画の如く鮮に領している。元浅野内匠頭家来、当時細川家に御預り中の大石内蔵助良雄は、その障子を後にして、端然と膝を重ねたまま、さっきから書見に余念がない。

「或日の大石内蔵助」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

内蔵助は、青空に象嵌をしたような、堅く冷い花を仰ぎながら、いつまでもじっと彳んでいた。

「或日の大石内蔵助」芥川龍之介(青空文庫)

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