蘆刈(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物
蘆の間から現れた男の語り
- 恋愛
- 幻想
- 文字数
- 38,453字
- 読了目安
- 約1時間17分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 大阪府
- 京都府
この作品について
谷崎潤一郎が1932年(昭和7)に雑誌『改造』に発表した中編小説。後鳥羽院の水無瀬離宮の故地を訪ねた「わたし」が、淀川の中洲で月見の酒を酌むうち、蘆の間から現れた男の身の上話を聞くという、王朝物語風の枠組みを持つ。男が語るのは、亡き父と、美しい未亡人お遊さんをめぐる物語。句読点を抑えた、流麗な仮名がちの文体が高く評価され、「吉野葛」「春琴抄」と並ぶ古典回帰期の代表作に数えられる。
あらすじ
九月のある日、「わたし」は水無瀬の宮の故地を訪ね、淀川の中洲で月を眺めながら独り酒を酌んでいた。そこへ蘆の間から一人の男が現れ、身の上を語り始める。男の父・慎之助は若き日、大阪の旧家の美しい未亡人お遊さんに恋をした。しかしお遊さんは亡夫の忘れがたみを抱え、婚家との義理で再縁のかなわぬ身。妹のお静は姉に仕えたい一心で慎之助と形ばかりの夫婦となり、お遊さんを中心に据えた三人の奇妙な暮らしが続いた。やがて子供の死をきっかけに周囲の疑いの目が強まり、お遊さんは伏見の造り酒屋へ再縁させられ、慎之助はお静と真の夫婦となって男が生まれたのだという。男は今も十五夜の晩ごとに、お遊さんの住む巨椋池の別荘を覗きに行くのだと語るが、お遊さんはもう八十近いはずではと「わたし」が問い返すと、男の姿は月の光に溶け入るように消えてしまった。
登場人物
- わたし 水無瀬の故地を訪れ、川辺で男の物語を聞く語り手
- 男 月見の晩に蘆の間から現れる謎めいた人物。父から聞いたお遊さんの思い出を語る
- お遊さん 大阪の旧家の美しい未亡人。おっとりと雅やかで、皆に傅かれて生きる
- 慎之助 男の父。お遊さんに恋しながら、その妹と形ばかりの夫婦となる
- お静 お遊さんの妹。姉に仕えるため慎之助に嫁ぎ、二人の仲を取り持つ
冒頭部(原文より)
君なくてあしかりけりと思ふにも いとゞ難波のうらはすみうき まだおかもとに住んでいたじぶんのあるとしの九月のことであった。あまり天気のいい日だったので、ゆうこく、といっても三時すこし過ぎたころからふとおもいたってそこらを歩いて来たくなった。遠はしりをするには時間がおそいし近いところはたいがい知ってしまったしどこぞ二、三時間で行ってこられる恰好な散策地でわれもひともちょっと考えつかないようなわすれられた場所はないものかとしあんしたすえにいつからかいちど水無瀬の宮へ行ってみようと思いながらついおりがなくてすごしていたことにこころづいた。
「蘆刈」谷崎潤一郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
さようでござります、今夜もこれから出かけるところでござります、いまでも十五夜の晩にその別荘のうらの方へまいりまして生垣のあいだからのぞいてみますとお遊さんが琴をひいて腰元に舞いをまわせているのでござりますというのである。わたしはおかしなことをいうとおもってでももうお遊さんは八十ぢかいとしよりではないでしょうかとたずねたのであるがただそよそよと風が草の葉をわたるばかりで汀にいちめんに生えていたあしも見えずそのおとこの影もいつのまにか月のひかりに溶け入るようにきえてしまった。
「蘆刈」谷崎潤一郎(青空文庫)
原文を読む
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