白花の朝顔(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
朝顔の笠と祇園の芸妓の怪
- 幻想
- 恋愛
- 文字数
- 30,889字
- 読了目安
- 約1時間2分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1932年(昭和7年)4月、『週刊朝日』春季特別号に発表された晩年の作品。作家の境辻三が語り手で、番町、鶯谷、上野の清水堂など東京の坂や寺を背景に、祇園の芸妓お絹との出会いと、亡き女流作家お洲美さんの思い出が交錯する。京言葉の掛け合い、朝顔の笠を被った巡礼姿、天狗に連れ去られたような怪異など、現実と幻想の境が溶ける運びが、鏡花晩年の幻想味を示す。分量は中編で、会話の遊び心も多い。
あらすじ
作家の境辻三は、番町の土手下の窪地の家を訪ねてきた祇園の芸妓お絹の京言葉を聞き、数日前まで天狗に攫われたような目に遭っていたことを思い出して、語りはじめる。辻三は京都でお絹と知り合い、女形役者の路之助の饗応を受けて東山を案内されていた。お絹が東京の辻三を訪ねてきた晩、本郷座で路之助の舞台を見るうちに、お絹は階段を転げ落ちるなど怪しいことが続く。やがて二人は上野の清水堂の舞台へ立つことになる。その途上、辻三は、かつて師・大野木宗匠の妻になった女流作家お洲美さん(水木藻蝶)の思い出を語る。秋田の織物屋の息子を弟子にする頼みや、朝顔の季節のできごと、巡礼の笠を描いた夜。お洲美さんは結婚から三年目に、産後で亡くなった。辻三は朝顔の笠を両袖で抱きしめ、降り出した雨の中で「お洲美さん、ありがとう」と呼びかけて、物語は閉じる。
登場人物
- 境辻三 作家。祇園の芸妓と亡き女流作家をめぐる縁を語る
- お絹 祇園の芸妓。京言葉を話し、辻三を訪ねて東京へ来る
- お洲美(水木藻蝶) 辻三の師の妻になった女流作家。産後に亡くなった
- 路之助 お絹と縁のある女形役者
冒頭部(原文より)
「あんた、居やはりますか。」 ……唄にもある――おもしろいのは二十を越えて、二十二のころ三のころ――あいにくこの篇の著者に、経験が、いや端的に体験といおう、……体験がないから、そのおもしろいのは、女か、男か。勿論誰に聞かしても、この唄は、女性の心意気に相違ないらしいが、どんなのを対手にした人情のあらわし方だか、男勝手にはちょっときめにくい。ただしどう割引をした処で、二十二三は女盛り……近ごろではいっそ娘盛りといって可い。しかも著者なかま、私の友だち、境辻三によって話された、この年ごろの女というのは、祇園の名妓だそうである。
「白花の朝顔」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
術をもって対すれば、俳優何するものぞ。ただしその頃は、私に台本、戯曲を綴る気があった。ふと、演出にあたって、劇中の立女形に扮するものを、路之助として、技の意見、相背き、相衝いて反する時、「ふん、おれの情婦ともしらないで。……何、人情がわかるものか。」と侮蔑されたら何とする?!…… 「ああ、お洲美さん、ありがとう。」 と朝顔の笠を両袖で――外套は宿へ忘れて来た――袖でひしと抱いて、桜を誘う雨ながら、ざっと一しきり降り来る中に、怪しき巨人に襲わるる、森の恐怖にふるえつつも、さめざめと涙を流した、石燈籠が泣くように。……
「白花の朝顔」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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