夫人利生記(泉鏡花)のあらすじ・登場人物
摩耶夫人の像に母を見る
- 幻想
- 恋愛
- 文字数
- 12,694字
- 読了目安
- 約25分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
泉鏡花の短編。末尾に「大正十三(一九二四)年七月」とある。母の実家の菩提寺を訪ねた樹島が、摩耶夫人堂に奉納された人妻の写真に目を留め、その縁から仏師に摩耶夫人の像を注文する。母の面影と信仰、ふとした恋慕の入り混じった心の動きを、寺町の風景とともに描く。
あらすじ
樹島は母の実家の檀那寺に墓参りしたのち、釣鐘の清水のほとりで休むうち、洗濯に現れた婦人から道を教わる。その婦人の顔は、のちに摩耶夫人堂の壇で見つけた奉納写真の人妻のものと同じだった。写真を持って行ってよいと声をかけられた樹島は、気後れしてすぐ壇に戻し、町はずれの仏師を訪ねて摩耶夫人の像を注文する。仏師の家で聞こえる幼い子の声から、写真の婦人が仏師の妻だと悟り、動揺する。東京へ戻った十二月、戸の心張棒を扱う拍子に手を痛めるが、二日後に届いた像の面は仏師の若い妻ではなく、幼いころに亡くした母の面影そのものだった。像の手は裂けて指が落ち、樹島は身代わりの御慈愛と感じて、胸に抱いて泣く。
登場人物
- 樹島 母の実家の檀那寺へ墓参りに来た男
- 仏師 摩耶夫人の像を注文される、町はずれの仏師
- 人妻 釣鐘の清水で樹島が出会い、写真でも再会する婦人
- 樹島の母 幼いころに亡くなった、像の面影になる人
冒頭部(原文より)
瑠璃色に澄んだ中空の樹の間から、竜が円い口を張開いたような、釣鐘の影の裡で、密と、美麗な婦の――人妻の――写真を視た時に、樹島は血が冷えるように悚然とした。…… 山の根から湧いて流るる、ちょろちょろ水が、ちょうどここで堰を落ちて、湛えた底に、上の鐘楼の影が映るので、釣鐘の清水と言うのである。
「夫人利生記」泉鏡花(青空文庫)
末尾部(原文より)
なお仏師から手紙が添って――山妻云々とのお言、あるいはお戯でなかったかも存ぜぬが、……しごとのあいだ、赤門寺のお上人が四五度もしばしば見えて、一定それに擬え候よう、御許様のお母様の俤を、おぼろげならず申伝えられましたるゆえ――とこの趣であった。 ――樹島の事をここに記して―― 筆者は、無憂樹、峰茶屋心中、なお夫人堂など、両三度、摩耶夫人の御像を写そうとした。いままた繰返しながら、その面影の影らしい影をさえ、描き得ない拙さを、恥じなければならない。
「夫人利生記」泉鏡花(青空文庫)
原文を読む
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