貧乏(幸田露伴)のあらすじ・登場人物
帯を売って買った朝酒
- 風刺
- 心理
- 文字数
- 8,071字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1897年(明治30年)10月の日付を持つ幸田露伴の短編小説。博打に負けて何もかも失った三十過ぎの亭主が、朝の九時を過ぎても寝床から出ず、女房のおとまに酒を買って来いと言いつけるところから始まる。物語は、啖呵と軽口の飛び交う江戸前の夫婦の掛け合いでほとんど進み、賭場の誘いに来る男、近所の鍛冶屋の鎚の音、湯屋帰りの朝酒と、狭い家の一日が手際よく切り取られる。地の文は文語、会話は歯切れのよい口語で書き分けられ、貧乏の底にありながら意地と冗談を手放さない夫婦の情が、威勢のいいやりとりのなかから浮かび上がってくる。
あらすじ
九時を過ぎても寝ている亭主の金さんは、女房のおとまに酒を一升と豆腐を買って来いと言う。家には金もなく、亭主は自分の着物を持って行けと言うが、おとまは黙って出ていく。そこへ博打仲間の日瓢が、明日の晩から柳原で賭場が開くと誘いに来る。帰ったおとまは手ぶらだったが、やがて酒屋の丁稚が酒と豆腐を届け、亭主は湯へやられる。湯から戻って朝酒を飲みながら、亭主は女房が自分の締めていた繻子の帯を外して酒に替えたことに気づき、その後ろ姿にホロリとしたと打ち明ける。この六、七日、合百、花札、チーハと手当たり次第に博打を打ったが、残ったのは明日勝負の決まる富籤一枚だけだと白状し、愛想が尽きたら別れてやると言う。さらに、富籤が当たらなければ強盗になってでも栄華をさせると口にし、声をひそめて、一昨日盗みをして来たのならどうすると女房に問う。おとまは涙をにじませながらも居住まいを正し、何が何でもいい、首になっても並ぼうと言い放つ。亭主は彼女を抱き締めて、冗談だ、貧乏しても馬鹿なことをしてなるものかと笑い、明日の富籤に当たりたいと言いながら、今度はこれを売って来いと着物を脱いで寝衣に着替え、めりやすを唸り出した。
登場人物
- 金さん 三十一、二の亭主。博打で何もかも失った威勢のいい男
- おとま 金さんの女房。三十前の気さくな女
- 日瓢 坊主上がりの田舎者。博打仲間
冒頭部(原文より)
その一 「アア詰らねえ、こう何もかもぐりはまになった日にゃあ、おれほどのものでもどうもならねえッ。いめえましい、酒でも喫ってやれか。オイ、おとま、一升ばかり取って来な。コウ、もう煮奴も悪くねえ時候だ、刷毛ついでに豆腐でもたんと買え、田圃の朝というつもりで堪忍をしておいてやらあ。ナンデエ、そんな面あすることはねえ、女ッ振が下がらあな。
「貧乏」幸田露伴(青空文庫)
末尾部(原文より)
とヒラリと素裸になって、寝衣に着かえてしまって、 やぼならこうした うきめはせまじ、 と無間の鐘のめりやすを、どこで聞きかじってか中音に唸り出す。
「貧乏」幸田露伴(青空文庫)
原文を読む
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