美少女(太宰治)のあらすじ・登場人物
湯気のむこうの一瞬
- 心理
- 文字数
- 5,623字
- 読了目安
- 約11分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 山梨県
この作品について
甲府の猛烈な暑さに音を上げ、家内にすすめられて湯村の大衆浴場へ通うようになった「私」が、浴場の湯気のなかで見かけた一人の少女をめぐって書いた短編。散髪屋の鏡にちらと映った青い簡単服の姿と、湯にひたる裸身とが結びついたとき、「私」は思わず息を呑む。日常のごく小さな出来事を、照れと自嘲をまじえた語り口で書きとめた甲府時代の一篇。
あらすじ
ことしの正月から山梨県甲府市のまちはずれに小さい家を借り、少しずつ貧しい仕事をすすめてもう半年が過ぎた。六月にはいると盆地特有の猛烈な暑熱がじりじりやって来て、北国育ちの「私」は仰天する。机の前に黙って坐っていると急に世界が暗くなり、たしかに眩暈の徴候である。家内はからだじゅうのアセモに悩まされていたので、皮膚病に特効があるという湯村の温泉へ毎日通わせることにした。大衆浴場はのんびりしていて浴客は農村の老人ばかり、あなたも一度おいでなさい、という家内のすすめであった。……暑熱を言い訳に仕事を怠けていた「私」は、やがて自分も湯村へ足を運ぶようになる。その前後に立ち寄った散髪屋で、「私」は鏡の奥にちらと花のようなものを見る。青い簡単服を着て窓ぎわの椅子に腰かけている少女の姿である。女弟子だろうか、娘だろうか。それ以上注意して見なかったが、しばらくして少女が背後から首筋をのばし、鏡の中の「私」の顔をちょいちょい見ていることに気づく。二度も三度も鏡の中で視線が逢った。振り向きたいのを我慢しながら、「私」は見たような顔だと思っていた。
登場人物
- 私 甲府のまちはずれに住む作家
- 家内 アセモに悩まされ湯村へ通う妻
- 少女 散髪屋の窓ぎわに坐っていた青い簡単服の娘
冒頭部(原文より)
ことしの正月から山梨県、甲府市のまちはずれに小さい家を借り、少しずつ貧しい仕事をすすめてもう、はや半年すぎてしまった。六月にはいると、盆地特有の猛烈の暑熱が、じりじりやって来て、北国育ちの私は、その仮借なき、地の底から湧きかえるような熱気には、仰天した。
「美少女」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
なお鏡を見つめていると、ちらと鏡の奥に花が写った。青い簡単服着て、窓のすぐ傍の椅子に腰かけている少女の姿である。そこに少女の坐っているのを、そのときはじめて知ったわけである。私は、けれどもあまり問題にしなかった。女弟子かな? 娘かな? ちらとそう思っただけで、それ以上、注意して見なかった。
「美少女」太宰治(青空文庫)
原文を読む
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