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木々の精、谷の精(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

弥勒の微笑と山の一夏

  • 心理
  • 恋愛

坂口安吾 1939年(昭和14年)3月 「文芸」

文字数
23,902字
読了目安
約48分
表記
新字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 新潟県

この作品について

1939年(昭和14年)、雑誌「文芸」に発表された坂口安吾の短編。北越の山村の旧家で一夏を過ごす青年・修吉が、半跏の弥勒像の不思議な微笑や、奔放な娘・葛子、美しい下婢お妙、重い病の少年といった人々に触れてゆく。「目をつぶれば消えてしまう美しさ」という感覚が全体を貫き、山の自然の描写と相まって、夏の終わりに起こる出来事へと静かに向かう。

あらすじ

玉木修吉は、友人の野沢の姉が嫁いだ北越山中・木暮村の秋山家で、一夏を過ごすことになった。家には半跏して頬杖をつく弥勒像があり、その不思議な微笑のことを野沢から何度も聞かされていた。像の美しさは、目をつぶると跡形もなく消えてしまう。修吉はその「消える美しさ」に惹かれながら、日々を送る。家には、見合いで気に入った相手との結婚直前に自分から破談の電話をかけた野沢の姪・葛子、腰にギプスをつけ、無感動に横たわる病の少年、見る人をたじろがせる美貌の下婢お妙などがいる。修吉は葛子に連れられて谷底の淵へ降りたり、村人の話に耳を傾けたりしながら、葛子が少年の傷の手当てをする様子に、何か陰惨な秘密めいたものを感じとる。やがて夏の終わり、葛子は行方知れずとなり、修吉が思い浮かべたとおり、谷底の淵に浮かんでいるのが見つかる。山を降りて野沢と向かい合った修吉は、弥勒もお妙も遠い存在になり、ただ葛子の死が惜しまれてならないことに気づく。二人は、死んだ葛子へのやるせない追惜に沈んでゆく。

登場人物

冒頭部(原文より)

修吉が北越山中の秋山家を訪ねたとき、恰もそれを見るために遥々やつてきたやうに、まづ仏像のことを尋ねた。  仏像は弥勒だといふ話であつた。観音に似た女性的な柔和な相をし、半跏して、右手で軽く頬杖をついて静思とも安息ともうけとれるやうな姿をしたあの像である。この弥勒像の柔和な顔にきざまれた不思議な微笑に就いて、かねて友達の野沢から屡々話をきいてゐたのだ。

「木々の精、谷の精」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

たつた二十キロの山道を車が走つてくるうちに、もう、これである。柄にもなく、未明に起きて山寺に坐つたことなど、思ひだしても、笑ひだしたくなるばかりだ。 「なるほど、な。葛子さんも、案外、死にたくなるやうな心の秘密があつたかも知れないな」 「わつはつは。君は弥勒にだまされて、うかうか一夏過したのだらう」  二人の思ひは、死んだ葛子を追惜する同じ暗さに、自然に落ちて行くやうだつた。

「木々の精、谷の精」坂口安吾(青空文庫)

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