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朴水の婚礼(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

婚礼の夜に酔う文士たち

  • 風刺

坂口安吾 1946年(昭和21年)3月 「新女苑」

文字数
11,238字
読了目安
約22分
表記
新字旧仮名
種別
小説

この作品について

1946年、雑誌「新女苑」に載った、坂口安吾のユーモア小説。駅前の本屋の主人信助、詩人の中介、保坂三平ら風変わりな面々が、絵描きの朴水の突然の婚礼に集まろうとして、酔いとけんかでてんやわんやになる。戦後すぐの物資不足を背景に、型破りな人物たちが飛びかう掛け合いが楽しい一編。

あらすじ

朝巻信助は火星人という渾名の本屋の主人で、親友の詩人の芥中介と、信助を蛸に見立てる中介の悪口が原因で信助夫人と大喧嘩になり、夫人の摺子木で中介はのびてしまう。夫人は、ペンキ屋で素人考古学者の青眠洞から、絵描きの朴水の婚礼の台所の手伝いを頼まれて出かける。ところが信助は新刊書を売りに顧客を回っていて、婚礼の知らせを知らない。同じころ、保坂三平は富永秋水という共産党くずれの坊主に出くわし、本屋の小僧が喫茶店へ入りびたって店の本を持ち出していることまで暴かれる。信助は外科医の南雲稔の病院で薬用アルコールをふるまわれ、頭に傷を負った中介が「ジャコビン党にやられた」と飛びこんできて、二人してアルコールを飲む。婚礼の席では、朴水の婚礼が盛大に進んでいたが、台所で信助夫人が鳶口をかまえて中介を追いつめ、中介は釜を楯にボクシングの構えをとって、敗れて闇のなかへ這い出す。三平は中介の背をさすって人間の味方は二人だけだと慰め、酒のコップと瓶を手にした二人は、それぞれ勝手な方角へ暗闇の底へ消えてゆく。

登場人物

冒頭部(原文より)

 朝巻信助は火星人といふ渾名であつたが、それは頭デッカチで口が小さいといふ意味ながら、顔が似てゐるためではなく、内容的な意味であつた。彼は親友が死んだとき、泣いてゐる奥さんの前で「彼の死は悲しむべく然し、それは目出度いことである。さうでもないか。然し、とにかく――」かう言つて絶句してしまふのであるが、それはつまり彼が平常色々の考へごとをしてゐるからで、死といふことに就いてもかねて色々に考へてゐるから、単純に死は悲しいといふやうな表現ができない。生憎彼は非常に表現の下手な生れつきで、精神内容を表現しきれず、事あるたびに奇妙なことを口走る結果になつて、怒られたり笑はれたり蔑まれたりしてゐる。だから火星人といふのであるが、この渾名は好意的な解釈であるから、つまり彼は友達にだけは精神内容の豊富な点を認められてゐるのであつた。

「朴水の婚礼」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 中介は起き上つて、再び台所へフラ/\と戻つて行つた。羽目板にもたれた信助はすでにウツラ/\としてゐる。中介は右手の瓶と左手の目盛のコップをとりあげた。信助は薄目をひらいて中介を見たが、すぐ目をとぢて再び眠りはじめてゐる。  三平は歌を唄ひ、中介は目盛のコップにアルコールを注いで、各々勝手な方角へ暗闇の底へ消えてしまつた。

「朴水の婚礼」坂口安吾(青空文庫)

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