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防雪林(小林多喜二)のあらすじ・登場人物

石狩の小作農と地主の冬

  • 社会
  • 心理

小林多喜二 

文字数
65,182字
読了目安
約2時間10分
表記
旧字旧仮名
種別
小説
舞台
  • 北海道

この作品について

小林多喜二が1928年(昭和3年)に書いた小説で、題のあとに「北海道に捧ぐ」と献辞があり、末尾に「一九二八・四・二六」と執筆の日付が記されている。舞台は石狩川のほとりに家々の散らばる開拓村で、土地を地主に握られた小作農の暮らしを描く。物語は、晩秋の氷雨の夜、大柄で無口な若い農夫源吉が、道庁の役人の目を盗んで仲間と石狩川へ鮭の密漁に出るところから始まる。土地の言葉そのままの会話と、氷雨や吹雪にさらされる平原の情景描写を重ねながら、冬籠りの貧しさ、札幌へ出ていく若者たち、地主に向き合おうとする村の動きへと筆を進めていく。翌年の『不在地主』と並ぶ多喜二の農民小説である。

あらすじ

十月の末、石狩川のほとりの開拓村に住む若い小作農源吉は、道庁の役人の取り締まりをあざ笑うように、怖がる勝を誘って夜の石狩川で鮭の密漁をし、獲った鮭を何か月も魚を口にできずにいる村の家々に配らせる。源吉は十一、二のころ、父が地主に畑の証文へ判を押させられた日に、地主の脛にかじりついたことがあった。

冬が来て、高い小作料と借金に追いつめられた百姓たちは、校長先生の後押しを受けて小学校に集まり、小作料の減免を地主に嘆願することを決める。源吉は「地主から畑ばとつ返すのさ」と叫ぶが、皆の罵声に押しつぶされる。かつて源吉と心を通わせていたお芳は、札幌で金持ちの北大生と関係し、身ごもったまま捨てられて村へ戻ってくる。

差配にも地主にも追い返された百姓たちは、雑穀を馬橇に積んで町へ売りに向かうが、待ち構えていた巡査に捕らえられ、駐在所で殴る蹴るの取り調べを受ける。幹部は札幌へ送られ、村はすっかりしおれてしまう。吹雪の帰り道、源吉ははっきり「敵」を見たと思い、歯をかみしめる。まもなくお芳が、陣痛のさなかに納屋で首をつって死に、金持ちを憎んで死ぬという遺書を源吉に残す。源吉は石油を携えて夜道を町へ向かい、地主の家に火を放つ。燃え上がる炎を背に、源吉は「まだ足りねえぞ」とつぶやきながら暗い石狩平野を歩いていった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 十月の末だつた。  その日、冷たい氷雨が石狩のだゞツ廣い平原に横なぐりに降つてゐた。  何處を見たつて、何んにもなかつた。電信柱の一列がどこまでも續いて行つて、マツチの棒をならべたやうになり、そしてそれが見えなくなつても、まだ平であり、何んにも眼に邪魔になるものがなかつた。所々箒のやうに立つてゐるポプラが雨と風をうけて、搖れてゐた。一面に雲が低く垂れ下つてきて、「妙に」薄暗くなつてゐた。烏が時々周章てたやうな飛び方をして、少しそれでも明るみの殘つてゐる地平線の方へ二、三羽もつれて飛んで行つた。

「防雪林」小林多喜二(青空文庫)

末尾部(原文より)

 源吉は誰にも氣付かれずに、防雪林が鐵道沿線に添つて並んでゐるところまで、走つてきた。防雪林の片側が火事の光を反射して明るくなつてゐた。振りかへつてみると、空一杯が赤く染つてゐた。現場の手前の家やその屋根の上に立つて、何やら手を振つてゐる人や、電柱などが一つ一つ黒く、はつきり見えた。そこで騷いでゐる人達の叫び聲などが、何かの拍子に、手にとるやうに、間近かに聞えたりした。半鐘は、プウーン、プウーン、とかすかに、うなつてゐるやうに聞えた。 「まだ足りねえや。」  源吉は獨言をすると、今度はしつかりした足取りで、暗い石狩平野の雪道を歩き出した。 「まだ足りねえぞ、畜生!」

「防雪林」小林多喜二(青空文庫)

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