アプリで読む

無料・登録不要

独房(小林多喜二)のあらすじ・登場人物

獄中を朗らかに語る男の話

  • 社会

小林多喜二 1931年(昭和6年)7月 「中央公論」

文字数
17,526字
読了目安
約35分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

小林多喜二が1931年(昭和6年)7月の「中央公論」夏期特集号に発表した短編。治安維持法違反で捕らえられた多喜二自身の豊多摩刑務所での拘置体験をもとにしたとされる。冒頭で、八カ月を独房で過ごして保釈された田口という男の話で「別に小説と云うべきものでもない」と断り、「ズロースを忘れない娘さん」「アパアト住い」「赤色体操」などの小見出しを付けた挿話を、「俺」の一人称の軽い語り口で連ねていく。留置場から刑務所の独房へ移る日々を、暗く悲惨な獄中記としてではなく、壁越しの合図や同志への連帯を交えて朗らかに語ろうとする構えが特色である。

あらすじ

八カ月の独房暮らしから保釈された田口は、最初の晩、一睡もせずに喋り通した。これはその田口の話である。

共産党の関係で捕まった田口は、警察署をたらい回しにされ、Y署の留置場では窓の真上の物干しに上がる隣家の娘を同房の者たちと見上げて、取り調べの拷問の合間の長い日々をしのいだ。起訴されると自動車でT刑務所へ送られ、青い囚人服に編笠をかぶって独房No.19に入れられる。初めは声をあげて泣きたいほど心細かったが、六十日ぶりの風呂、赤い着物の床屋の冗談、決まりきった日課のなかで、外の過酷な活動で弱っていた体はかえって健康を取り戻していく。運動場の柵の割れ目に松葉で作られた「K」「P」の文字を見つけ、隣の独房の同志と咳やくしゃみ、壁をたたく音で挨拶を交わして、自分は独りではないと知る。

差し入れの袷の袂から母が入れた文殊菩薩のお守りが出てきて、田口は母を思って声もなく泣く。十一月七日のロシア革命記念日には監房じゅうが足踏みと壁たたきで沸き立ち、出廷の日には護送車の窓から半年ぶりの街を眺めた。ドストエフスキーの『死の家の記録』を読んで兄を案じる妹の手紙に、田口は、プロレタリアートはどこにいても朗らかだ、独房は「全くのん気なところですよ」と言い、盆踊りの身振りで「独房小唄」を歌ってみせる。

登場人物

冒頭部(原文より)

 誰でもそうだが、田口もあすこから出てくると、まるで人が変ったのかと思う程、饒舌になっていた。八カ月もの間、壁と壁と壁と壁との間に――つまり小ッちゃい独房の一間に、たった一人ッ切りでいたのだから、自分で自分の声をきけるのは、独り言でもした時の外はないわけだ。何かものをしゃべると云ったところで、それも矢張り独り言でもした時のこと位だろう。その長い間、たゞ堰き止められる一方でいた言葉が、自由になった今、後から後からと押しよせてくるのだ。

「独房」小林多喜二(青空文庫)

末尾部(原文より)

 第一、俺は見覚えの盆踊りの身振りをしながら、時々独房の中で歌い出したものだ―― 独房よいとオこ、 誰で――もオおいで、 ドッコイショ ……………… 附記 田口の話はまだ/\沢山ある。これはそのホンの一部だ。私は又別な機会に次々とそれを紹介して行きたいと思っている。

「独房」小林多喜二(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品