大つごもり(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
大晦日の奉公娘と人の情け
- 心理
- 社会
- 文字数
- 9,664字
- 読了目安
- 約19分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1894年(明治27年)12月の『文学界』に発表された樋口一葉の短編小説。題名は一年の最後の日、大晦日を意味する。裕福な山村家で働く十八歳のお峯は、厳しい女主人に仕えながら、病気で商売を休んでいる伯父の暮らしを案じている。育ててもらった恩に報いたい娘にとって、年越しに必要なわずかな金を工面することが切実な問題となる。水汲みや使い走りといった奉公の仕事、借金の利息、食べ物や着物の細部を通じて、豊かな家と貧しい家との隔たりを具体的に描く。語り手の評言に人物の話し言葉が入り交じり、お峯のまじめさと周囲の身勝手さが、時に皮肉を帯びて浮かび上がる。のちに「奇跡の十四か月」と呼ばれた創作の充実期の始まりに位置する作品で、生活の重みを短い物語に収める一葉の筆を見ることができる。
あらすじ
山村家に奉公する下女のお峯は、真面目な働きぶりで気位の高い女主人の御新造にも重宝されているが、心には人知れぬ気がかりを抱えている。病に倒れた伯父夫婦は困窮のどん底にあり、暮れも押し詰まった大晦日、伯父を助けるための金二円の工面を御新造に願い出て、いったんは承諾を得ていた。ところがいざその日になると、御新造は約束などした覚えはないと素知らぬ顔で言い抜ける。進退窮まったお峯は、良心の呵責に苦しみながらも、懸け硯の引き出しから金二枚を抜き取り、迎えに来た伯父の子・三之助に持たせてしまう。一方この家には、勘当同然の放蕩息子・石之助がおり、大晦日の夜も金の無心にやって来て父から五十円をせしめて出て行く。夜になり大勘定で金の不足が露見し、お峯は覚悟を決めて申し出ようとする刹那、引き出しの中からは「引出しの分も拝借致し候」という石之助の書き置きが見つかる。石之助の名で金が持ち出されたため、お峯は詮議されずに済む。石之助が事情を知っていたのかは分からない。
登場人物
- お峯 山村家に奉公する下女。病身の伯父を助けるため主家の金に手をつけてしまう本作の主人公
- 御新造 山村家の女主人。お峯に金の融通を約束しながら後で反故にする
- 石之助 山村家の勘当同然の放蕩息子。大晦日にも金の無心に来るが、結果的にお峯の罪をかぶることになる
- 安兵衛 お峯の伯父。病で床に伏し、一家は困窮している
- 三之助 安兵衛の息子。八歳ながら家計を助けようと蜆売りをする孝行者
冒頭部(原文より)
井戸は車にて綱の長さ十二尋、勝手は北向きにて師走の空のから風ひゆうひゆうと吹ぬきの寒さ、おお堪えがたと竈の前に火なぶりの一分は一時にのびて、割木ほどの事も大台にして叱りとばさるる婢女の身つらや。
「大つごもり」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
お峯が引出したるは唯二枚、残りは十八あるべき筈を、いかにしけん束のまま見えずとて底をかへして振へども甲斐なし、怪しきは落散し紙切れにいつ認めしか受取一通。(引出しの分も拝借致し候 石之助)さては放蕩かと人々顔を見合せてお峯が詮議は無かりき、孝の余徳は我れ知らず石之助の罪に成りしか、いやいや知りて序に冠りし罪かも知れず、さらば石之助はお峯が守り本尊なるべし、後の事しりたや。
「大つごもり」樋口一葉(青空文庫)
名文
井戸は車にて綱の長さ十二尋、勝手は北向きにて師走の空のから風ひゆうひゆうと吹ぬきの寒さ
奉公先の台所の寒さから書き起こす冒頭。大晦日の金に追い詰められる少女お峰の一日を、雅俗折衷の名調子で描き出す。
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。