わかれ道(樋口一葉)のあらすじ・登場人物
針仕事の夜に交わす言葉
- 心理
- 社会
- 文字数
- 6,748字
- 読了目安
- 約13分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1896年(明治29年)1月4日の『国民之友』に発表された樋口一葉の短編小説。仕立物をして暮らすお京の家へ、傘屋の小僧・吉三が夜更けに訪ねてくる。二十歳を過ぎた女と十六歳の少年は、軽口を交わし、餅を焼き、仕事の愚痴や身の上を話す、姉弟のような間柄である。ほとんどを二人の対話で進め、言い返しや冗談、ふと弱音をこぼす調子によって、それぞれの孤独を伝えていく。着物や針仕事、火鉢といった小さな暮らしの道具が、言葉を交わす場の温かさと生活の厳しさを同時に形づくる。出世を夢見ることにもためらう少年と、日々の仕事で身を立てる女との語らいを通し、貧しい中で人を頼りにする気持ちを捉える。短い上中下三部の中で、親しさを支える言葉と、互いの境遇を理解する難しさとが近くに置かれた作品である。
あらすじ
貧しい裏長屋で仕立物の針仕事をして暮らす若い女・お京と、傘屋に奉公する背の低い小僧・吉三は、姉弟のように睦まじく付き合いながら日々の憂さを語り合う仲だった。大晦日の夜、吉三がいつものようにお京の家を訪ねると、お京は突然、明日から邸へ「お妾奉公」に出ることになったと打ち明ける。貧しい暮らしに倦み疲れたお京は、その申し出を受け入れる決意をしたのだった。頼れる者のいない世を、せめて姉弟のような情で慰め合ってきた吉三は、たった一人の心の拠り所を失う衝撃と、金のために身を売らねばならぬお京への同情との間で激しく取り乱し、去っていくお京の袖にすがりつくのだった。
登場人物
- お京 貧しい裏長屋で仕立物の針仕事をして暮らす若い女。吉三と姉弟のように親しくしている本作の主人公の一人
- 吉三 傘屋に奉公する背の低い小僧。「一寸法師」と仇名され、お京だけを心の支えにしている
冒頭部(原文より)
お京さん居ますかと窓の戸の外に来て、ことことと羽目を敲く音のするに、誰れだえ、もう寐てしまつたから明日来ておくれと嘘を言へば、寐たつて宜いやね、起きて明けておくんなさい、傘屋の吉だよ、己れだよと少し高く言へば、嫌な子だねこんな遅くに何を言ひに来たか、又御餅のおねだりか、と笑つて、今あけるよ少時辛棒おしと言ひながら、仕立かけの縫物に針どめして立つは年頃二十余りの意気な女。
「わかれ道」樋口一葉(青空文庫)
末尾部(原文より)
そんならお妾に行くを廃めにしなさるかと振かへられて、誰れも願ふて行く処では無いけれど、私はどうしてもかうと決心してゐるのだからそれは折角だけれど聞かれないよと言ふに、吉は涕の目に見つめて、お京さん後生だから此肩の手を放しておくんなさい。
「わかれ道」樋口一葉(青空文庫)
原文を読む
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