文七元結(三遊亭円朝)のあらすじ・登場人物
娘が売った五十両を投げ与える
- 心理
- 文字数
- 14,981字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
本所の腕利きの左官・長兵衞は、無類の博打好きが高じて身代を潰し、年の暮れに娘のお久が我が身を吉原に売ってこしらえた五十両で改心を誓う。ところがその帰り道、大川端で身投げしようとする若い奉公人・文七に出会い、長兵衞はなけなしの五十両を投げ与えてしまう——。江戸っ子の強情と情け深さがからみ合って大団円へ向かう、三遊亭円朝の口演で知られ今なお高座にかかる人情噺の名作。
あらすじ
本所達磨横町に住む左官の長兵衞は、二人前の腕を持ちながら博打好きで身を持ち崩し、年の瀬にとうとう身ぐるみ剥がれて帰ってくる。そんな父を見かねた娘のお久が、自ら吉原の廓・角海老に身を寄せ、女将の情けで長兵衞に五十両が渡される。来年の大晦日までに返せなければお久が店に出るという約束であった。娘の犠牲に胸を打たれ、堅気に立ち直ろうと心を決めた長兵衞は、その帰り道、吾妻橋で身を投げようとしている若者を見つける。白銀町の鼈甲問屋・近江屋の奉公人・文七で、主人から預かった掛け金の五十両を掏られたと思い込み、死んでお詫びをしようとしていた。長兵衞は、娘が身を売ってこしらえた金だと明かしながらも、命には代えられぬとなけなしの五十両を投げ与えて立ち去る。ところが文七の五十両は実は届いており、掏られてはいなかった。翌日、事の次第を知った近江屋の主人が長兵衞の家を訪れ、五十両を返したうえ、文七を養子にしたいと申し出る。さらに肴と称して駕籠で運ばれてきたのは、近江屋が請け出したお久であった。文七とお久は夫婦となり、主人ののれん分けで麹町に文七元結の店を開いて、めでたく大団円を迎える。
登場人物
- 長兵衞(ちょうべえ) 本所達磨横町の左官。二人前の腕を持ちながら博打で身を持ち崩す、強情だが情け深い江戸っ子。
- お久(おひさ) 長兵衞の娘。父を改心させようと自ら吉原に身を売る。
- お兼(おかね) 長兵衞の妻。
- 文七(ぶんしち) 白銀町の鼈甲問屋・近江屋の奉公人。掛け金を掏られたと思い込んで身を投げようとする。
- 近江屋の主人 文七の奉公先の主人。真相を知り、五十両を返してお久を請け出し、二人を夫婦にする。
- 角海老の女将 吉原の廓の女将。お久に情けをかけ、長兵衞に五十両を貸す。
冒頭部(原文より)
さてお短いもので、文七元結の由来という、ちとお古い処のお話を申上げますが、只今と徳川家時分とは余程様子の違いました事で、昔は遊び人というものがございましたが、只遊んで暮して居ります。よく遊んで喰って往かれたものでございます。何うして遊んでて暮しがついたものかというと、天下御禁制の事を致しました。只今ではお厳しい事でございまして、中々隠れて致す事も出来んほどお厳しいかと思いますと、麗々と看板を掛けまして、何か火入れの賽がぶら下って、花牌が並んで出ています、これを買って店頭で公然に致しておりましても、楽みを妨げる訳はないから、少しもお咎めはない事で、隠れて致し、金を賭けて大きな事をなさり、金は沢山あるが退屈で仕方がない、負けても勝っても何うでも宜いと、退屈しのぎにあれをして遊んで暮そうという身分のお方には宜しゅうございますが、其の日暮しの者で、自分が働きに出なければ、喰う事が出来ないような者がやりますと、自然商売が疎になります。慾徳ずくゆえ、倦きが来ませんから勝負を致し、今日で三日続けて商売に出ないなどということで、何うも障りになりますから、厳しゅう仰しゃる訳で、併し賭博を致しましたり、酒を飲んで怠惰者で仕方がないというような者は、何うかすると良い職人などにあるもので、仕事を精出して為さえすれば、大して金が取れて立派に暮しの出来る人だが、惜い事には怠惰者だと云うは腕の好い人にございますもので、本所の達磨横町に左官の長兵衞という人がございまして、二人前の仕事を致し、早くって手際が好くって、塵際などもすっきりして、落雁肌にむらのないように塗る左官は少ないもので、戸前口をこの人が塗れば、必ず火の這入るような事はないというので、何んな職人が蔵を拵えましても、戸前口だけは長兵衞さんに頼むというほど腕は良いが、誠に怠惰ものでございます。
「文七元結」三遊亭円朝(青空文庫)
末尾部(原文より)
主人「イエサもう来ているだろう」 と云いながら腰障子を開けると、其の頃の事ゆえ、四ツ手駕籠で、刺青だらけの舁夫が三枚で飛ばして参り、路地口へ駕籠を下し、あおりを揚げると中から出たのはお久で、昨日に変る今日の出立ち、立派になって駕籠の中より出ながら、 久「お父さん帰って来たよ」 長「ムーンお久……どうして来た」 久「あの此処にいらっしゃる鼈甲屋の旦那様に請出されて帰って来たよ」 兼「オヤお久、帰ったかえ」 と云いながら起つと、間が悪いからクルリと廻って屏風の裡へ隠れました。さて是から文七とお久を夫婦に致し、主人が暖簾を分けて、麹町六丁目へ文七元結の店を開いたというお芽出度いお話でございます。
「文七元結」三遊亭円朝(青空文庫)
原文を読む
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