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小さな部屋(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

憂鬱な男と屈託のない女

  • 恋愛
  • 心理

坂口安吾 1933年(昭和8年)2月 「文藝春秋」

文字数
15,240字
読了目安
約30分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

昭和8年、「文藝春秋」2月号に掲載された坂口安吾の短編。友人どうしの男三人と、気ままな女詩人麻油、閨秀画家の孤踏夫人が、愛憎と虚無のなかで入り組んだ関係を結ぶ。登場人物の名前も、現実と半ば離れた寓話のような趣があり、憂鬱な男たちと天真爛漫な女との対比が軸となる。初期の安吾が昭和初期のモダニズム的な感覚で書いた、観念的で乾いた恋愛劇である。

あらすじ

ディレッタントの韮山痴川は、女詩人の浅間麻油を独占するでもなく軽蔑されながら、友人の伊豆や小笠原との奇妙な関係を続けている。麻油は男たちが憂鬱に沈む温泉宿でも、ひとりのんびりと過ごす屈託のない女である。痴川の生活力に圧倒された伊豆は、痴川を殺すと手紙に書き、小笠原に告げるが相手にされない。麻油は伊豆に首を絞められ、逆に絞め返す。孤踏夫人は痴川の死を願う自分に気づき、小笠原も同じ思いだと考えて安らぐが、小笠原は自分にそんな一途な思いなどないと知っている。痴川は小笠原に会いにゆくが、小笠原は静かに慰めるだけである。麻油は小笠原に手紙を書き、親しさに倦んだ小笠原は東京を去って海辺の村へ行く。そして雨の日に孤踏夫人へ海の便りを出した夜、催眠薬を多量にのんで死ぬ。痴川は窶れて麻油を連れ、山の湯宿へ行く。麻油は小笠原の顔を忘れたと明るく笑い、痴川は自分だけは忘れないでくれとすがって泣き、麻油は母親のように抱いて笑う。

登場人物

冒頭部(原文より)

「扨て一人の男が浜で死んだ。ところで同じ時刻には一人の男が街角を曲っていた」――  という、これに似通った流行唄の文句があるのだが、韮山痴川は、白昼現にあの街角この街角を曲っているに相違ない薄気味の悪い奴を時々考えてみると厭な気がした。自分も街角を曲る奴にならねばならんと思った。

「小さな部屋」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

痴川は俄かにぎょっと顔色を変えて、それから暫くして思い出したように上体をよろめかせたが、今度はいきみたって憤慨して、お前くらい冷酷で薄情な奴はないと喚いたり愚痴ったりしたあげくには、麻油に縋りついて到頭めそめそ泣き出してしまって、 「俺だけは忘れないようにしてくれ。俺はもう自分のれっきとした身体さえ、手で触れてみても実在するようには呑み込めない頼りない人間だ。この気の毒な可哀そうな俺だけは忘れないように、頼む、お願いだ……」  と悲しい声を張りあげて、断末魔のように身体を顫わせて掻口説いていた。その痴川を麻油は母親のように抱いてやって、けたたましく笑い出したが、 「いいのいいの。大丈夫よ。貴方の顔は忘れっこないわ。だって、とても風変りなんだもの……」

「小さな部屋」坂口安吾(青空文庫)

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