小さな王国(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物
教室に生まれた子どもの王国
- 心理
- 文字数
- 23,765字
- 読了目安
- 約48分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
谷崎潤一郎が1918年(大正7年)、「中外」に発表した短編小説。生活苦にあえぐ小学校教師・貝島昌吉の受け持つ教室に、沼倉という一人の少年が転校してくる。ふしぎな統率力を持つ沼倉は、いつしかクラスの子どもたちを従え、独自の紙幣まで発行する「小さな王国」を築きあげていく。子どもの遊びが帯びる不気味な力と、それに呑み込まれていく貧しい教師の姿を、谷崎が冷徹な心理描写で描いた異色作である。
あらすじ
純粋の江戸っ子でありながら、学問を好んだために世渡りに失敗し、生活苦にあえぐ小学校教師・貝島昌吉。七人目の子が生まれようとする貧しい一家を抱え、地方のM市の小学校に転任してきた彼の受け持つ教室に、沼倉という一人の少年が転校してくる。目立たぬ風采ながら、沼倉にはふしぎな統率力があり、いつしかクラスの子どもたちは、彼を頭領と仰いで従うようになる。子どもたちは沼倉のもとで、独自の政府をつくり、役割を分担し、ついには自分たちだけで通用する紙幣まで発行する「小さな王国」を築きあげていく。はじめは子どもの遊びと高をくくっていた貝島も、その組織の完璧さと、沼倉の帯びる異様な威厳とに、次第に引き込まれていく。困窮のきわみにあった貝島は、あるとき病気の子のために薬を買う金にも困り、ついには沼倉の「王国」が発行した紙幣を、本物の金のように受け取ってしまう。子どもの遊びが帯びる不気味な力と、それに呑み込まれていく貧しい教師の姿を、谷崎が冷徹な筆で描いた異色の一編である。
登場人物
- 貝島昌吉 生活苦にあえぐ小学校教師。純粋の江戸っ子。沼倉の築く「小さな王国」に次第に呑み込まれていく
- 沼倉 貝島の教室に転校してきた少年。ふしぎな統率力でクラスを従え、紙幣まで発行する「王国」を築く頭領
冒頭部(原文より)
貝島昌吉がG県のM市の小学校へ転任したのは、今から二年ばかり前、ちょうど彼が三十六歳の時である。彼は純粋の江戸っ児で、生れは浅草の聖天町であるが、舊幕時代の漢学者であった父の遺伝を受けたものか、幼い頃から学問が好きであった為めに、とう/\一生を過ってしまった。―――と、今ではそう思ってあきらめて居る。
「小さな王国」谷崎潤一郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
そう考えたので、彼は大声にから/\と笑って、店員の一人にこんなことを云った。 「いや、此れを札と云ったのは冗談ですがね。でもまあ念の為めに受け取って置いて下さい。いずれ三十日になれば、此の書附と引き換えに現金で千圓支拂いますから。………」
「小さな王国」谷崎潤一郎(青空文庫)
原文を読む
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