竹青(太宰治)のあらすじ・登場人物
もう一つの生を知る貧書生
- 幻想
- 文字数
- 10,978字
- 読了目安
- 約22分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
太宰治が1945年(昭和20年)4月、『文藝』に発表した短編。副題は「新曲聊斎志異」。中国の怪異譚集『聊斎志異』の「竹青」に材をとり、妻にも親戚にも軽んじられる不遇の貧書生・魚容が、呉王廟の神との出会いをきっかけに、もう一つの生を知る幻想的な物語。夢とうつつ、この世と別の世を行き来しながら、真の幸福とは何かを問う。異国の古典に取材しつつ、太宰らしい情感と諧謔がにじむ。
あらすじ
湖南の貧書生・魚容は、早くに両親を失い、親戚をたらい回しにされて育ち、伯父に押しつけられた醜く心根のよくない女房にも、その学問を頭から軽蔑されている。一念発起して郷試に挑むも無惨に落第し、失意のまま帰る途中、腹をすかせて洞庭湖畔の呉王廟の廊下に倒れ込み、「烏には貧富が無くて仕合せだ」とつぶやいて眠りに落ちる。すると呉王廟の神が現れ、魚容に黒い羽衣を与え、彼は一羽の烏となる。烏の群れのなかで魚容は、美しい雌烏・竹青と出会い、夫婦となって睦まじく暮らす。烏として過ごすもう一つの生のなかで、魚容は人の世で得られなかった安らぎと愛を知る。夢とうつつのあわいを行き来したのち、ふたたび人間に戻った魚容は、御自慢の「君子の道」も口にせず、平凡な一田夫として静かに生きていくのだった。
登場人物
- 魚容 不遇の貧書生。烏となって竹青と結ばれる
- 竹青 魚容が烏の世界で出会う美しい雌烏
- 女房 魚容とその学問を軽蔑する、醜く心ないその妻
冒頭部(原文より)
むかし湖南の何とやら郡邑に、魚容という名の貧書生がいた。どういうわけか、昔から書生は貧という事にきまっているようである。この魚容君など、氏育ち共に賤しくなく、眉目清秀、容姿また閑雅の趣きがあって、書を好むこと色を好むが如しとは言えないまでも、とにかく幼少の頃より神妙に学に志して、これぞという道にはずれた振舞いも無かった人であるが、どういうわけか、福運には恵まれなかった。
「竹青」太宰治(青空文庫)
末尾部(原文より)
一生、誰にも語らず、また、れいの御自慢の「君子の道」も以後はいっさい口にせず、ただ黙々と相変らずの貧しいその日暮しを続け、親戚の者たちにはやはり一向に敬せられなかったが、格別それを気にするふうも無く、極めて平凡な一田夫として俗塵に埋もれた。
「竹青」太宰治(青空文庫)
原文を読む
原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。