大経師昔暦(近松門左衛門)のあらすじ・登場人物
偽りの密通が逃避行になる
- 恋愛
- 古典
- 文字数
- 20,736字
- 読了目安
- 約41分
- 表記
- 新字旧仮名
- 舞台
- 京都府
この作品について
近松門左衛門の人形浄瑠璃。1715年(正徳5年)に大坂・竹本座で初演された世話物で、上・中・下の三巻から成る。京の大経師(朝廷の暦の作成と販売を許された商家)の妻と手代が、密通の罪に問われて処刑された実際の事件を題材にしている。ただし近松は、二人にもともと不義の心はなかったことにして、女中の玉の身代わりと主人の好色、実家の借金という行きちがいが重なり、ふとした弾みから密通とされてしまう話に組み替えた。大経師以春の妻おさんは、実家の父・岐阜屋道順の借金を、手代の茂兵衛に頼んで用立ててもらおうとする。茂兵衛は主人の印判を無断で押して銀を工面しようとして見つかるが、女中の玉が嘘を言ってかばう。以春は玉に言い寄っていたため、おさんは夜、玉と寝所を替わって夫を懲らしめようとする。暗闇のなかの行きちがいから、二人は家を逃れることになる。結末は近松の世話物では珍しいものになっている。本書は「近代日本文学大系」第7巻(国民図書、1928年)による原文で、国立国会図書館が公開する底本の画像とOCRテキストを照らし合わせて起こし、収録した。
あらすじ
【上之巻】貞享元年(1684年)十一月朔日、京・四条烏丸の大経師以春の家は、新しい暦を朝廷へ献上する祝いの日を迎えている。以春は、女中の玉に言い寄って抱きつき、玉はおさんに言いつけると逃げる。そこへ、おさんの母が訪ねてくる。おさんの実家・岐阜屋道順が、家屋敷を二重に質に入れ、二貫百目の利息と、あと一貫目の銀に困っているという。おさんは、手代の茂兵衛に頼み込む。茂兵衛は、おさんと主家のためと思い切って、主人の印判を借用証文に押す。そこへ、おも手代の助右衛門が現れ、茂兵衛は盗人だとして主人に突き出す。玉は、自分が頼んだのだと嘘を言って茂兵衛をかばう。以春は二人が密通していると思い込み、茂兵衛を隣の空き家の二階に押し込める。玉に恩を感じたおさんは、夜、玉と寝所を替わり、玉のふりをして以春を懲らしめようとする。茂兵衛も、玉に恩を返したいと思い、屋根伝いに玉の寝所へ忍び込む。暗闇の中で出会った二人は、そこへ帰ってきた以春に見つかる。【中之巻】おさんと茂兵衛は、夜の京を抜け出し、岡崎へ向かう。玉は、伯父の浪人・赤松梅龍に預けられている。二人は玉の泣き声を聞き、通りかかったおさんの両親にも出会う。父の道順は娘を叱りつけて、貸してもらった銀一貫目を、そっと二人の前に残していく。【下之巻】二人は丹波の山里に隠れ住むが、旅の万歳に顔を知られ、家主の助作にも売られる。茂兵衛は、おさんをかばって代官の役人に縛られる。伯父の梅龍が、玉の首を携えて駆けつけ、玉が一人で罪を負うと申し出るが、役人は聞き入れず、二人は京へ引かれていく。道順夫婦が、娘の助命を泣いて頼む。そのとき、黒谷の東岸和尚が衣を投げかけて二人を救う。
登場人物
- おさん 大経師以春の妻。京の下立売の岐阜屋道順の娘
- 茂兵衛 大経師の手代。まじめな奉公人で、おさんの頼みを引き受ける
- 以春 大経師。暦の商売で栄える家の主で、女中の玉に言い寄る
- 玉 大経師の女中。茂兵衛に心を寄せ、二人をかばう
- 助右衛門 大経師のおも手代。茂兵衛と折り合いが悪い
- 道順 おさんの父。京の下立売の岐阜屋
- 赤松梅龍 玉の伯父の浪人。『太平記』を講釈して暮らしている
- 東岸和尚 黒谷の僧。二人の命を救う
冒頭部(原文より)
唐猫が牡猫呼ぶとて、薄化粧するはしをらしや。猫さへもつま故忍ぶに、我が身は何とから打ちの、エイソリヤ綱よりとけぬ契りぞや。
「大経師昔暦」近松門左衛門(青空文庫)
末尾部(原文より)
未来でも現世でも、たすかるといふ文字二つはなし。サアたすけた。」と呼ばはる声、諸人「わつ。」と感ずる声、道順夫婦の悦びの、声はつきせず万年暦、昔暦新暦、当年未の初暦、めでたく開きはじめける。
「大経師昔暦」近松門左衛門(青空文庫)
原文を読む
原文はアプリに収録しています(縦書きで読めます)。底本:「近代日本文学大系」第7巻 近松門左衛門集 下(国民図書、1928年)。国立国会図書館デジタルコレクションで公開されている底本の画像と、同館「次世代デジタルライブラリー」のOCRテキスト(パブリック・ドメイン)をもとに、画像と照らし合わせて起こし、本文だけを収録した(ルビ・註の印・曲節の指定・解題・註釈は省いた)。旧字は新字に改めた(仮名遣いは底本のまま)。