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道鏡(坂口安吾)のあらすじ・登場人物

悪僧とされた男の素顔

  • 歴史
  • 恋愛

坂口安吾 1947年(昭和22年)1月 「改造」

文字数
22,512字
読了目安
約45分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 奈良県

この作品について

皇位を狙った稀代の悪僧——そう語り継がれてきた道鏡を、坂口安吾はまるで違う人物として描き直す。日本史の「女性時代」という補助線から説き起こし、現人神として育てられ女として生きることを許されなかった孝謙女帝の孤独を照らし出したうえで、その傍らに素直で純一な魂を持った一人の僧を置く。歴史の通説を裏返してみせる、安吾の歴史小説の代表作の一つ。

あらすじ

日本史に女性時代ともいうべき一時期があった——物語はそこから始まる。読者は平安朝を想像するに違いないが、紫式部や清少納言の才気は男に愛せられるためのものであって、本来の意味での女性時代ではない。真の女性時代は、女帝が実権を握った奈良朝にこそあった、と安吾は説く。そして孝謙(称徳)女帝を「壮大な不具者」と呼ぶ。彼女は天下第一の人格として、世に最も尊貴な現人神として育てられ、女としての心情が当然もとむべき男については何も教えられなかった。父母である聖武天皇と光明皇后は、祖母の元明、伯母の元正がいずれも独身で身持ちの堅かったことを見て、その娘気質を軽率に盲信したのである。……その孤独な女帝の傍らに、道鏡が現れる。安吾の描く道鏡は、権勢を狙う野心家ではない。祈りのなかで卑下することなく心を高められ、香気のように無に帰しもし、岩のようにそびえもする——ただ女帝の冥福だけを思い、自分を思わない男である。彼は女帝を愛していた。心もからだも女帝のすべてに没入し、その魂は幼児のように素直で純一だった。やがて女帝は世を去り、後ろ盾を失った道鏡は下野へ流される。すべてはすでに終わっていた。棄つべきものは何もなく、雲を見れば雲が、山を仰げば山が胸にしみた。それでも彼は凜冽たる一つの気品を胸にいだいて放さず、それをいだいて命の終る日を無為に待てば、それでよかった。

登場人物

冒頭部(原文より)

 日本史に女性時代ともいうべき一時期があった。この物語は、その特別な時代の性格から説きだすことが必要である。  女性時代といえば読者は主に平安朝を想像されるに相違ない。紫式部、清少納言、和泉式部などがその絢爛たる才気によって一世を風靡したあの時期だ。

「道鏡」坂口安吾(青空文庫)

末尾部(原文より)

 陵下を離れる思いのほかに、彼を苦しめる思いはなかった。すべては、すでに、終っていた。棄つべきものは何もなかった。雲を見れば雲が、山を仰げば山が、胸にしみた。  然し、彼は、凜冽たる一つの気品を胸にいだいて放さなかった。それは如何なる仏像よりも、何物よりも、尊かった。それをいだいて、彼は命の終る日を、無為に待てば、それでよかった。

「道鏡」坂口安吾(青空文庫)

原文を読む

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