艶書(山本周五郎)のあらすじ・登場人物
おとなしい三男に届いた恋文
- 歴史
- 恋愛
- 文字数
- 25,036字
- 読了目安
- 約50分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
この作品について
山本周五郎が1954年(昭和29年)、「小説倶楽部」に発表した時代小説。喧嘩早い父や兄たちのなかで、ひとりおとなしく「一生部屋住み」と見られてきた三男・岸島出三郎。ある宵節句の席で、彼のもとへ差出人の知れぬ艶書(恋文)が届く。おとなしい青年の秘めた誠実と、ひたむきな恋を描いた、心あたたまる一編である。
あらすじ
宝暦二年三月二日——岸島出三郎は、その日をよく覚えている。道場で念流の折紙をもらい、新村家の宵節句に招かれ、そしてその席で、差出人の知れぬ一通の艶書(恋文)を付けられたからだ。岸島の家は老職で、代々「加判」の役を世襲している。三男はたいてい暴れん坊と決まっているようだが、出三郎は幼いころからのんびりしたおとなしい子だった。短気な長兄、癇癪持ちの次兄、そして強情な父——三人が真っ赤な顔で唾を飛ばして怒鳴りあう壮観のなかで、出三郎だけは脇でびっくりしたような眼で眺めているばかり。父からは「生きているのか死んでいるのかわからないやつだ」と舌打ちされ、母からは「一生部屋住みでいるように生まれついたのでは」と哀れまれる始末だった。だが、そんなおとなしい出三郎の内には、まっすぐな誠実さが宿っていた。艶書の相手・七重をめぐる恋は、やがて成就へと向かう。「私はまもなくお役につくことができます、そうしたら……」——出三郎の胸にもたれかかり、七重はよろこびに酔ったような声で泣き続ける。雛段の雪洞がかすかにまたたく、その夜の情景が美しい。おとなしい青年のひたむきな恋を描いた、山本の一編である。
登場人物
- 岸島出三郎 おとなしい老職の三男
- 七重 出三郎の恋の相手
冒頭部(原文より)
岸島出三郎はその日をよく覚えている。それは宝暦の二年で、彼が二十一歳になった年の三月二日であった。よく覚えている理由は一日に二つの出来事があったからで、その一つは道場の師範から念流の折紙をもらったこと、他の一つは新村家の宵節句に招かれたこと、そうしてその宵節句の席で、彼は不明の人から艶書をつけられたのであった。
「艶書」山本周五郎(青空文庫)
末尾部(原文より)
「私がお役についたら……わかりますか、お役について、その時期が来たら――」 七重の泣き声であとは聞こえなかった。七重はいま出三郎の胸にもたれ、よろこびに酔ったような声で泣き続けた。――雛段の雪洞がかすかにまたたいていた。
「艶書」山本周五郎(青空文庫)
原文を読む
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