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英雄の器(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物

だから英雄の器だったのさ

  • 歴史

芥川龍之介 1918年(大正7年)1月 「人文」

文字数
1,610字
読了目安
約3分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

項羽を討ち取った日の夜の幕営。漢の大将・呂馬通が「項羽という男は英雄の器じゃないですな」と論じ立て、烏江を渡って捲土重来すべきだった、天命にかずけるのは卑怯だと言い募る。それを黙って聞いていた鼻の高い男が、ひとことだけ答える——芥川の中国物のなかでも切れ味の鋭い一篇。

あらすじ

西楚の覇王の首をあげた勝ち戦の夜、幕営には十人あまりの顔が燈火を囲んでいる。漢の大将・呂馬通が、ただでさえ長い顔を一層長くしながら疎な髭を撫でて言う。「何しろ項羽と云う男は、英雄の器じゃないですな」。強いことは強い。塗山の禹王廟の石の鼎さえ曲げるというし、今日の戦でも一時は命がないと思ったほどだ。だが、烏江に追いつめられた楚の軍はたった二十八騎で、亭長がわざわざ舟で江東へ渡そうと言ってくれたのに、項羽はそれを断って死んでしまった。英雄の器があるなら垢を含んでも烏江を渡り、捲土重来するはずだ、面目などにかまっている場合ではない——。すると鼻の高い、眼光の鋭い顔が皮肉な微笑を漂わせて言う。「すると、英雄の器と云うのは、勘定に明いと云う事かね」。一同の口から静かな笑い声が上がるが、呂馬通はひるまない。項羽は戦の前に部下二十八人へ「項羽を亡すものは天だ。人力の不足ではない」と言い、実際九度も勝ってみせた。自分の失敗を天にかずけるその態度こそ卑怯であり、立派に生きられるところを死んだのだ、と。英雄とは天と戦うもの、天命を知ってもなお戦うものだろう——呂馬通がそう畳みかけたとき、鼻の高い顔の眼に、思いがけない感動の熱がともった。

登場人物

冒頭部(原文より)

「何しろ項羽と云う男は、英雄の器じゃないですな。」  漢の大将呂馬通は、ただでさえ長い顔を、一層長くしながら、疎な髭を撫でて、こう云った。彼の顔のまわりには、十人あまりの顔が、皆まん中に置いた燈火の光をうけて、赤く幕営の夜の中にうき上っている。

「英雄の器」芥川龍之介(青空文庫)

末尾部(原文より)

「すると項羽は――」  劉邦は鋭い眼光をあげて、じっと秋をまたたいている燈火の光を見た。そうして、半ば独り言のように、徐にこう答えた。 「だから、英雄の器だったのさ。」

「英雄の器」芥川龍之介(青空文庫)

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