半七捕物帳 朝顔屋敷(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物
素読吟味の朝、若殿が消えた
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 15,232字
- 読了目安
- 約30分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
岡本綺堂「半七捕物帳」の第十一話で、1918年(大正7年)に「文芸倶楽部」に掲載された。安政三年の冬、湯島の聖堂で旗本・御家人の子弟が四書五経の素読の試験を受ける「素読吟味」の朝、裏四番町の旗本杉野家の十三の跡取り大三郎が、供の目の前でお茶の水の堤から姿を消す。武家の子の学問の試験の仕組みや、身分の上下による子どもどうしの対立が、老人の説明とともに描かれる。杉野家は、朝顔の花が咲くと凶事があると言い伝えられる「朝顔屋敷」で、皿屋敷と並ぶ番町の怪談も話の背景になる。武家屋敷の内情に町方の岡っ引が分け入る難しさと、神隠しが信じられていた時代の空気が伝わる一編。
あらすじ
安政三年十一月、八丁堀同心の槇原に呼ばれた半七は、旗本杉野家の用人中島角右衛門から内密の探索を頼まれる。八日前、聖堂の素読吟味に向かう十三の若殿大三郎が、中小姓の山崎平助が草履の緒を直し、中間の又蔵が提灯をかざしているわずかの間に、お茶の水の堤で消えたという。半七は四番町で中間部屋に出入りする提重の女お六から、杉野家が朝顔の花を忌む「朝顔屋敷」と呼ばれていると聞く。平助に声をかけると、責任ある身のはずなのに妙によそよそしい。さらにお六の連れのお安が、恋仲の又蔵に近く大金が入るはずだと漏らす。その夜、半七は千鳥ヶ淵の堀端で平助と又蔵が金のことで言い争い、取っ組み合うのを溝に潜んで聞き、殴られた又蔵を連れ出して白状させる。若殿は平助の長屋の戸棚に隠され、お安が三度の食べ物を重箱で運んでいた。夏に屋敷に白い朝顔が咲いて奥方が凶事を案じていた折、又蔵が若殿の供の途中で小身の御家人の子を殴り、素読吟味の日に仕返しをすると脅された。わが子を案じた奥方が平助に相談し、神隠しを装う狂言を仕組んだのだった。奥方から出た二十五両のうち平助が十五両を着服し、残りを又蔵と分けたことが争いのもとだった。槇原の勧めで、主人には知らせず神隠しとして収め、若殿は無事に戻された。その後、又蔵はお安と駆け落ちし、平助は一年ほどして主人に手討ちにされ、奥方は里へ帰されたという。
登場人物
- 半七 神田三河町の岡っ引。武家屋敷の内密の探索を引き受ける
- 杉野大三郎 裏四番町の旗本杉野家の十三の跡取り。おとなしい美少年
- 中島角右衛門 杉野家の忠義な用人
- 山崎平助 杉野家の中小姓。若殿の供をしていた小才のきく男
- 又蔵 杉野家の中間。提重のお安と恋仲
- お安 武家屋敷の中間部屋に出入りする提重の女
冒頭部(原文より)
一 「安政三年……十一月の十六日と覚えています。朝の七ツ(午前四時)頃に神田の柳原堤の近所に火事がありましてね。なに、四、五軒焼けで済んだのですが、その辺に知っている家があったもんですから、薄っ暗いうちに見舞に行って、ちっとばかりおしゃべりをして家へ帰って、あさ湯へ飛び込んで、それからあさ飯を食っていると、もうかれこれ五ツ(午前八時)近くになりましたろう。そこへ八丁堀の槇原という旦那(同心)から使が来て、わたくしにすぐ来いと云うんです。
「半七捕物帳 朝顔屋敷」岡本綺堂(青空文庫)
末尾部(原文より)
「そうすると、朝顔は息子より阿母さんに祟った訳ですかね」 「そうかも知れません。その屋敷は維新後まで残っていましたが、いつの間にか取り毀されてしまって、今じゃ細かい貸家がたくさん建っています」
「半七捕物帳 朝顔屋敷」岡本綺堂(青空文庫)
原文を読む
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