開化の殺人(芥川龍之介)のあらすじ・登場人物
開化の世に遺された告白
- ミステリ
- 歴史
- 文字数
- 8,400字
- 読了目安
- 約17分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
芥川龍之介の「開化物」の短編。明治初期の医師・北畠義一郎が、死の直前に旧友の本多子爵夫妻へ宛てた遺書の形をとり、旧仮名と漢文調の文語体で、自らの犯した殺人とその後の苦悶を告白する。日本の近代化が進む明治十年代の東京を舞台に、劇場や水楼、馬車といった「開化」の風俗が背景に置かれる。「中央公論」1918(大正7)年7月号に発表。
あらすじ
明治初期の医師・北畠義一郎は、少年期から従妹の明子を愛していたが、英国留学中に明子は銀行頭取の満村恭平に嫁いでいた。帰国後、キリスト教に慰めを求めて愛を肉親的な感情へ変えた北畠は、柳橋の水楼で満村の放蕩ぶりを目にして、不義を懲らす道徳的な憤激から殺意を抱く。さらに親友の本多子爵が、もとは明子と許嫁の仲だったと知り、満村を除けば二人は結ばれると考える。明治十二年六月、新富座の夜、北畠は満村の血色の悪さを指摘して丸薬を勧める。満村は帰りの馬車の中で病死し、警察医は脳出血と診断した。明子は離縁され、やがて本多子爵と結婚することになるが、北畠の胸には子爵をも殺したいという誘惑が兆す。北畠は、同じ丸薬で自分を殺すほかに、自分の道徳を守る道はないと考え、遺書を書き終えて劇場へ向かう。
冒頭部(原文より)
下に掲げるのは、最近予が本多子爵(仮名)から借覧する事を得た、故ドクトル・北畠義一郎(仮名)の遺書である。
「開化の殺人」芥川龍之介(青空文庫)
末尾部(原文より)
さらば予は筆を擱いて、予が馬車を命じ、直に新富座に赴かん。而して半日の観劇を終りたるの後、予は「かの丸薬」の幾粒を口に啣みて、再予が馬車に投ぜん。節物は素より異れども、紛々たる細雨は、予をして幸に黄梅雨の天を彷彿せしむ。斯くして予はかの肥大豕に似たる満村恭平の如く、車窓の外に往来する燈火の光を見、車蓋の上に蕭々たる夜雨の音を聞きつつ、新富座を去る事甚遠からずして、必予が最期の息を呼吸す可し。卿等亦明日の新聞を飜すの時、恐らくは予が遺書を得るに先立つて、ドクトル北畠義一郎が脳出血病を以て、観劇の帰途、馬車内に頓死せしの一項を読まんか。終に臨んで予は切に卿等が幸福と健在とを祈る。卿等に常に忠実なる僕、北畠義一郎拝。
「開化の殺人」芥川龍之介(青空文庫)
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