アプリで読む

無料・登録不要

半七捕物帳 春の雪解(岡本綺堂)のあらすじ・登場人物

按摩が怖がる入谷の寮

  • ミステリ
  • 歴史

岡本綺堂 1918年(大正7年) 「文芸倶楽部」

文字数
15,212字
読了目安
約30分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都

この作品について

岡本綺堂「半七捕物帳」の第九話で、1918年(大正7年)に「文芸倶楽部」に掲載された。半七老人は、芝居の河内山で直侍が入谷の寮へ忍んで来る場面(清元「忍逢春雪解」)を見るたびに思い出す一件として語り始める。慶応元年の正月、雪の入谷田圃を通りかかった半七は、吉原の妓楼辰伊勢の寮の前で、仲働きの女に呼び込まれながら頑なに逃げる按摩の徳寿を見かける。訳を聞くと、寮で出養生している花魁誰袖の肩を揉んでいると、そばに何かが黙って坐っているようで気味が悪いのだという。雪の田圃、蕎麦屋の行燈、廓の寮といった芝居さながらの情景のなかで、盲人の不確かな直感を半七が見過ごさずに追っていく。のちに六代目尾上菊五郎によって劇化された話としても知られる。

あらすじ

慶応元年の正月末、雪の入谷田圃で、半七は吉原の妓楼辰伊勢の寮の前で、仲働きのお時に呼び込まれながら逃げるように断る按摩の徳寿を二度見かける。蕎麦屋で訳を聞くと、寮で出養生をしている花魁誰袖の肩を揉んでいると、そばに口をきかない何かが坐っているようでぞっとするのだという。半七は子分の庄太に辰伊勢を探らせ、その話のついでに、金杉から吉原へ毎晩来ていた評判の辻占売りの娘おきんが、去年の暮れから姿を消したと聞く。金杉で徳寿に再会して問い詰めると、誰袖は辰伊勢の息子永太郎と忍び逢う仲で、徳寿はその文使いをしていた。おきんの兄で博奕打ちの寅松も姿を消していたが、去年の暮れに寺へ五両を納め、妹の家出の日を命日として回向を頼んでいた。春の雪解けの夕方、半七は寮から出てきたお時を尾け、蕎麦屋で寅松と会って「心中でもされたら玉無し」とささやくのを聞く。寮の前で寅松を捕らえて乗り込むと、奥では永太郎と誰袖が逆さ屏風を立てて剃刀で喉を突いていた。誰袖は永太郎がおきんと関係したことを妬み、お時に寮へ呼び込ませて細紐で絞め殺していた。お時の情夫だった寅松は、妹の仇も討たずに永太郎から出た百両の口止め料で死骸を寮の床下に埋めた。その後もお時と寅松は二人を強請り、追いつめられた二人は心中したのだった。徳寿が感じた何かの正体は語られないまま、床下にはおきんの死骸が埋まっていた。

登場人物

冒頭部(原文より)

一 「あなたはお芝居が好きだから、河内山の狂言を御存知でしょう。三千歳の花魁が入谷の寮へ出養生をしていると、そこへ直侍が忍んで来る。あの清元の外題はなんと云いましたっけね。そう、忍逢春雪解。わたくしはあの狂言を看るたんびに、いつも思い出すことがあるんですよ」と、半七老人はつづけて話した。「勿論お話の筋道はまるで違いますがね。舞台は同じ入谷田圃で、春の雪のちらちら降る夕方に、松助の丈賀のような按摩が頭巾をかぶって出て来る、その場面の趣があの狂言にそっくりなんですよ。まあ、聴いてください。わたくしの方は素話で、浜町の太夫さんの粋な喉を聴かせるなんていうわけには行かないんですから、お話に艶はありませんがね」

「半七捕物帳 春の雪解」岡本綺堂(青空文庫)

末尾部(原文より)

「さあ、それは判りませんね。そういうむずかしい理窟はあなた方のほうがよくご存じでしょう。辰伊勢の寮の床下にはおきんの死骸が埋まっていたんです」  半七老人はその以上に註釈を加えてくれなかった。わたしが、この物語を「春の雪解」と題したのは単に半七老人の口真似をしただけのことで、事実はかの直侍と三千歳との単純な情話よりも、もっと深い恐ろしいもののように思われてならない。

「半七捕物帳 春の雪解」岡本綺堂(青空文庫)

原文を読む

原文は青空文庫で公開されています(アプリからも同じ本文をダウンロードして縦書きで読めます)。

青空文庫の図書カード

同じ作家の作品

近い作品