風人録(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
寂念と颯爽と冷静の三先生
- 風刺
- 文字数
- 7,890字
- 読了目安
- 約16分
- 表記
- 新字旧仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 東京都
この作品について
1940年、雑誌「現代文学」に載った坂口安吾の小品。仏教の大学校に勤める三人の若い学者――いつも寂念として眠そうな先生、颯爽と弁じる先生、火事を見に出かけては何も見つけずに帰る冷静な居士――を、ユーモアに皮肉を混ぜた筆で紹介してゆく。三人が銀座の酒場に通っていた1936、7年頃の話から、戦時下の現在へと筆を移すところで終わる、人物スケッチのような作品。
あらすじ
電車に飛びこんで列車を飛び越えてしまった自殺未遂の男の逸話を枕に、語り手は、ある大学校の三人の学者を紹介する。一人は婆羅門哲学の先生で、いつも宿酔気味で寂念として眠そうな、酒を飲んでもまったく颯爽とならない人物。もう一人はその友人の先生で、天下の政治家になる野心を抱き、巴里風の酒場で周囲の女性を相手に談論風発する派手な人物。三人目は研究室に七年座り続けている冷静な居士で、自動車ポンプのサイレンを聞くと静かに出かけてバスに乗り、火事や喧嘩を見に行くが、現場に着くころには終わっていて、リンゴなどを買って帰る。三人は二日に一度ずつ銀座の酒場に通い、一人は女を膝にのせたまま化石のようにのび、一人は対欧策を弁じ、一人は誘われればダンスをする。語り手は、これが三、四年前、一九三六、七年ごろの銀座の話だと断り、その後わずか四年足らずで時勢が一変し、支那事変と欧州の戦乱が起こったことを述べて、話を最も新しい或る一日へ飛ばすところで筆を措く。
登場人物
- 寂念モーローの先生 婆羅門哲学の教師。宿酔気味で、飲んでも颯爽としない
- 颯爽の先生 政治家を夢見る派手な教師
- 冷静なる居士 研究室に七年座る研究生。火事見物に静かに出かける
冒頭部(原文より)
この世には、とても有り得まいと思はれることが、往々有りうるのである。しかも奇妙なことには、さういふ事に限つて、さて実際行はれてみると、人々になんの注意も惹かず、不思議な思ひすら与へず、有耶無耶のうちに足跡もなく通過してしまふ。
「風人録」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
さて、私が御紹介に及んだのは、今から約三四年前の――つまり一九三六、七年頃の銀座の夜の一角の話であつた。わづか四年足らずのうちに、時勢はまつたく一変した。 支那事変が起り、地球の裏側では二回目の欧洲戦乱がまき起つた。私達がふと「今」といふ瞬間について考へる。恐らくあらゆる「今」といふ瞬間が、どこかしらの戦場で誰かしら血潮を流した瞬間だ。それは我々の同胞であるかも知れない。ロンドンの市民であるかも知れず、ドイツのパイロットかも知れないのだ。 かうして四年の歳月が流れ、突然話は地球の最も新らしい或る一日へ飛ぶのである。
「風人録」坂口安吾(青空文庫)
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