ふるさとに寄する讃歌――夢の総量は空気であった――(坂口安吾)のあらすじ・登場人物
夢の総量は空気であった
- 心理
- 文字数
- 6,184字
- 読了目安
- 約12分
- 表記
- 新字新仮名
- 種別
- 小説
- 舞台
- 新潟県
この作品について
1931年、雑誌「青い馬」の創刊号に発表された、坂口安吾の初期の短編。副題は「夢の総量は空気であった」。ものを求めることに疲れた「私」が、少女の面影を追って雪国の港町のふるさとへ帰り、病む姉を見舞う数日を、詩のような散文で描く。風景と心象が溶けあう感覚的な文体が印象に残る。
あらすじ
夏の太陽に刺し貫かれて窶れた「私」は、ふるさとの海辺の砂丘で、風景がすべて自分を流れすぎるのを感じている。長いあいだ何かを求めつづけて疲れ、求めるものさえなくなったとき、思い出の奥から、十年近く会っていない少女の面影を掘り当てる。私は追われるように旅に出て、雪国の港町のふるさとに帰りつく。生家はすでになく、旅籠の四畳半に荷を投げ出し、あてもなく街を歩きながら彼女を探す。だが面影は輪郭を失い、概念のように実感がない。幼い日に遊んだ天主教寺院やポプラの杜を訪ねるうちに、姉が黒色肉腫でこの町の病院に入院していることを知る。会うのを避けつづけたすえ、ようやく見舞うと、姉は死を覚悟した白さで子供たちのことを語り、「お前のために素敵な晩餐会を開きたい」とくり返す。二人は虚勢を張って空々しい夢物語を続け、互いの嘘に泪を流して睡る。少女の家には別の家族が住んでいた。私は海へ泳ぎ出し、突然死を思い出して怖れる。東京に置き忘れた自分の影を取り戻しに帰ろうと決め、ホテルの楼上で姉と訣別の食卓を囲み、汽車で町を去る。別れだけが苦かった。
冒頭部(原文より)
私は蒼空を見た。蒼空は私に泌みた。私は瑠璃色の波に噎ぶ。私は蒼空の中を泳いだ。そして私は、もはや透明な波でしかなかった。私は磯の音を脊髄にきいた。
「ふるさとに寄する讃歌――夢の総量は空気であった――」坂口安吾(青空文庫)
末尾部(原文より)
私達はホテルの楼上に訣別の食卓をかこんだ。街の灯が次第にふえた。私は劇しくイライラしていた。姉は私の気勢に呑まれて沈黙した。私達は停車場へ行った。私達は退屈していた。汽車がうごいた。私は興奮した。夢中に帽子を振った。 別れのみ、にがかった。
「ふるさとに寄する讃歌――夢の総量は空気であった――」坂口安吾(青空文庫)
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