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瘋癲老人日記(谷崎潤一郎)のあらすじ・登場人物

老いてなお衰えぬ性への執着

  • 心理

谷崎潤一郎 1961年(昭和36年)11月 「中央公論」

文字数
98,411字
読了目安
約3時間17分
表記
新字新仮名
種別
小説
舞台
  • 東京都
  • 京都府

この作品について

谷崎潤一郎が1961年(昭和36年)から「中央公論」に連載した最晩年の長編小説。脳卒中の後遺症と病苦を抱える七十七歳の卯木督助が、カタカナ書きの日記に綴る偏執的な日々の記録である。老人は同居する息子の嫁・颯子の奔放な魅力に翻弄されながら、彼女の足を仏足石に写して自分の墓石に刻ませるという妄想にのめり込んでいく。老いと死を目前にした人間の性への執着を、グロテスクなユーモアとともに描き切った谷崎最後の傑作とされる。

あらすじ

七十七歳の卯木督助は、脳卒中の後遺症で手が不自由になり、血圧の発作に怯えながらも、口の達者な偏屈老人として一家に君臨している。彼のただ一つの生き甲斐は、同居する息子・浄吉の嫁の颯子である。元踊り子の颯子は老人の心中を見抜き、浴室での接吻を許す代わりに高価な猫眼石をねだるなど、狡猾に彼をあしらう。老人は颯子と若い春久との仲をうすうす察しながら、その嫉妬さえ刺戟として愉しむ倒錯の中にいる。やがて京都に自分の墓所を定める計画に取り憑かれた老人は、颯子の足の裏の拓本を取り、それを釈迦の仏足石になぞらえて墓石に刻ませ、死後永遠にその足の下に眠るという妄想に熱中する。拓本取りに興奮した老人は発作を起こして倒れ、日記は途絶える。巻末には看護記録や娘の手記が置かれ、小康を得た老人が庭のプール工事を眺めて空想にふける後日の姿が、淡々と記されるのである。

登場人物

冒頭部(原文より)

十六日。………夜新宿ノ第一劇場夜ノ部ヲ見ニ行ク。出シ物ハ「恩讐の彼方へ」「彦市ばなし」「助六曲輪菊」デアルガ他ノモノハ見ズ、助六ダケガ目的デアル。勘弥ノ助六デハ物足リナイガ、訥升ガ揚巻ヲスルト云ウノデ、ソレガドンナニ美シイカト思イ、助六ヨリモ揚巻ノ方ニ惹カレタノデアル。婆サント颯子ト同伴。浄吉モ会社カラ直接駆ケツケル。

「瘋癲老人日記」谷崎潤一郎(青空文庫)

末尾部(原文より)

四月中旬になってから、好天気の日には庭を二三十分ぐらい散歩するようになった。 大概看護婦がお供をしたが、稀には颯子が手を曳いていることもあった。 嘗て拵えてやると約束をしたプールの工事がもうその頃始まって、庭の芝生が掘り返されていた。 「拵えたって無駄だわよ、どうせ夏になればお爺ちゃんは日中に戸外へなんぞ出られやしないわ、無駄な費用だから止めた方がいゝわ」 と、颯子が云うと、浄吉が云った。 「約束通りプールの工事が始まっているのを、眺めるだけでも親父の頭にはいろ/\な空想が浮ぶんだよ。子供達も楽しみにしているしね」

「瘋癲老人日記」谷崎潤一郎(青空文庫)

名文

十六日。………夜新宿ノ第一劇場夜ノ部ヲ見ニ行ク。出シ物ハ「恩讐の彼方へ」「彦市ばなし」「助六曲輪菊」デアルガ他ノモノハ見ズ、助六ダケガ目的デアル。

老人の日記という形で書かれた『瘋癲老人日記』の最初の記述。この老人は、のちに息子の嫁・颯子への思慕を深めていく。

原文を読む

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