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断食芸人(カフカ)のあらすじ・登場人物

飢えることを芸にした男

  • 心理
  • 翻訳

カフカ 訳者 原田義人 1960年(昭和35年)4月 「書き下ろし」

文字数
10,974字
読了目安
約22分
表記
新字新仮名
種別
小説

この作品について

わらを敷いた小さな格子檻の中で、何十日も断食してみせる芸人がいた。かつては町じゅうが夢中になり、子どもたちが手をつないで見物に来たその見世物も、いまでは時代遅れになってしまった——。フランツ・カフカ晩年の短編(原題 EIN HUNGERKÜNSTLER)で、1922年に文芸誌『ノイエ・ルントシャウ』に発表され、1924年、作者の死の直後に出た短編集『断食芸人』の表題作となった。見張り役の肉屋たち、断食を四十日で打ち切らせる興行主、熱狂しては去ってゆく観客と、誰にも理解されない芸人との隔たりを、寓話のような淡々とした語りでたどる。同じ短編集には「最初の苦悩」も収められている。ドイツ文学者・原田義人の訳。

あらすじ

かつて断食芸人の興行は町じゅうを沸かせた。黒いタイツ姿のやせ細った芸人は、わらを敷いた檻の中で、肉屋たちの見張りを受けながら断食を続ける。だが興行主は、客足が落ちるのを見越して断食を四十日で打ち切らせ、芸人はそのたびに、もっと続けられるのになぜやめさせるのかと不満を抱く。誰も彼の芸を本当にはわかってくれず、断食がどれほどたやすいかを知っているのは彼だけだった。やがて世間の好みが変わり、断食芸人は見向きもされなくなる。彼は興行主と別れて大きなサーカスに雇われるが、その檻は動物小屋へ向かう通路に置かれ、客たちは足を止めずに通り過ぎてゆく。断食の日数を記す黒板も書き替えられなくなり、誰にも数えられないまま彼は断食を続けた。ある日、使われていない檻を不審に思った監督が、わらの中に埋もれた芸人を見つける。芸人は、感心してくれるなと言い、自分はうまいと思う食べものを見つけられなかったから断食するしかなかったのだと打ち明けて息を引き取る。彼はわらといっしょに埋められ、檻には若い豹が入れられて、見物人がひしめき合う。

登場人物

冒頭部(原文より)

 この何十年かのあいだに、断食芸人たちに対する関心はひどく下落してしまった。以前には一本立てでこの種の大きな興行を催すことがいいもうけになったのだが、今ではそんなことは不可能だ。あのころは時代がちがっていたのだ。あのころには町全体が断食芸人に夢中になった。断食日から断食日へと見物人の数は増えていった。だれもが少なくとも日に一度は断食芸人を見ようとした。興行の終りごろには予約の見物人たちがいて、何日ものあいだ小さな格子檻の前に坐りつづけていた。夜間にも観覧が行われ、効果を高めるためにたいまつの光で照らされた。晴れた日には檻が戸外へ運び出される。すると、断食芸人を見せる相手はとくに子供たちだった。大人たちにとってはしばしばなぐさみにすぎず、ただ流行だというので見るだけだが、子供たちはびっくりして口を開けたまま、安全のためにたがいに手を取り合って断食芸人の様子をながめるのだった。

「断食芸人」カフカ(青空文庫)

末尾部(原文より)

 これが最後の言葉だったが、まだ彼のかすんだ眼には、おれはもっと断食しつづけるぞ、というもう誇らしげではないにしろ固い確信の色が見えた。 「それじゃあ、片づけるんだ!」と、監督はいった。断食芸人はわらといっしょに埋められた。例の檻には一頭の若い豹が入れられた。あんなに長いこと荒れ果てていた檻のなかにこの野獣が跳び廻っているのをながめることは、どんなに鈍感な人間にとってもはっきり感じられる気ばらしであった。豹には何一つ不自由なものはなかった。豹がうまいと思う食べものは、番人たちがたいして考えずにどんどん運んでいった。豹は自由がないことを全然残念がってはいないように見えた。あらゆる必要なものをほとんど破裂せんばかりに身にそなえたこの高貴な身体は、自由さえも身につけて歩き廻っているように見えた。歯なみのどこかに自由が隠れているように見えるのだった。生きるよろこびが豹の喉もとからひどく強烈な炎熱をもって吐き出されてくるので、見物人たちがそれに耐えることは容易ではないほどだった。だが、見物人たちはそれにじっと耐えて、檻のまわりにひしめきより、全然そこを立ち去ろうとはしなかった。

「断食芸人」カフカ(青空文庫)

名文

この何十年かのあいだに、断食芸人たちに対する関心はひどく下落してしまった。以前には一本立てでこの種の大きな興行を催すことがいいもうけになったのだが、今ではそんなことは不可能だ。あのころは時代がちがっていたのだ。

カフカ『断食芸人』の書き出し。町じゅうが熱狂した見世物が忘れられていく時代の移り変わりを、淡々とした報告の調子で語り始める。

「うまいと思う食べものを見つけることができなかったからだ。うまいと思うものを見つけていたら、きっと、世間の評判になんかならないで、きっとあんたやほかの人たちみたいに腹いっぱい食っていたことだろうよ」

死の間際、断食芸人が監督の耳もとでささやく告白。芸として称賛されてきた断食の、意外な理由が明かされる。

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